カラダもココロも甘く激しく溺愛してくる絶対的支配者様〜正しい恋の忘れ方〜
知らない人の家の塀。

頼りなさそうに私達を照らす街灯の弱い灯り。

立ち止まった悠太が私を振り返って言った。

「あ、砂雪」

「ん?」

繋いでいた手が離れた。
急に軽くなった気がした。

「赤くなってる」

「何が?」

「舌」

「え、うそ」

「ほら」

悠太の指先が、私の口角に触れた。
ビクッとしたまま、私は固く口を閉じて悠太をジッと見た。

悠太はおかしそうに笑った。

「それじゃ見えないじゃん」

「見なくていい!」

「なんで?夏の特権なのに。りんご飴」

「そんなことないよ」

「そうかな?」

「そうだよ。いつだって食べれるもん」

「じゃあまた見せてよ。可愛いから」

可愛い。

その単語が私に向けられたものなのか、赤くなった舌になのか、りんご飴になのかは分からなかった。

だけどその花火大会の夜は、悠太に恋をしてるんだって気づくには十分だった。

私がこの学園の受験を決めたのは、悠太もここを選んだからじゃない。

でも悠太が好きだって自覚したら、その恋が活力になったことも確かだった。

友達としてじゃなくて、異性として好きだって言えないまま、私もモネも悠太も学園に合格した。

私と悠太の関係はあの花火大会からは一ミリも変わらないまま、高校生になった。
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