カラダもココロも甘く激しく溺愛してくる絶対的支配者様〜正しい恋の忘れ方〜
「弟さんが今日は晴れだよって言う時の声を覚えてますか?」

「えぇ。とてもクリアな感じ。お天気がいい日にお散歩に連れ出してくれる時の優しい風をイメージできる感じ」

「お天気があんまり良くない時は?」

「固くて重めの掛け布団を体に掛けられた感じ!ずっしりしてて、ちょっと窮屈ね。私は軽いほうが好きだわ」

「あはは!そうなんですね。じゃあそれでいいと思います」

「いいの?」

「はい。だって…正直に言いますね」

「うん」

「あなたに色の本質を伝えることはできないから。言葉ではどうしても。だからお姉さんにとっての世界のカラーは弟さんの声でいいと思います」

「弟の声?」

「よく晴れた綺麗な青だよ、雨が降りそうなどんよりとしたグレーだよ。赤くて鮮やかでおいしそうなりんごだ、優しく包み込んでくれるような白、そんな感じです。弟さんの声がお姉さんにどんな感情を与えているか。人を幸せにするんだとか、ちょっと憂鬱にしちゃうんだとか。色が何かって考えるよりも、声の調子から得られる感情を、お姉さんの世界では色だって言っていいんじゃないですか?」

「それじゃあ答えになってないだろ」

本郷先輩が私の肩に手を置いた。

でもお姉さんは目を瞑って、口角を上げて首を横に振った。

「とっても素敵。ありがとう」

「本当に?」

「えぇ。私にとっての色は、弟が教えてくれる感情。とっても素敵だわ」

「良かった…」

「また私と話をしてくれる?」

「私ですか?」

「えぇ。またいろんなことを教えてちょうだい」

「私で良ければ」

「じゃあ僕達はもう行きますね」

本郷先輩がもう一度私の肩をポンポンってして促した。

お姉さんの手を両手で包み込んで、「またいつか」って言ったら、手の平をギュッてして、「きっと、いつか」ってお姉さんは微笑んだ。
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