カラダもココロも甘く激しく溺愛してくる絶対的支配者様〜正しい恋の忘れ方〜
「失礼ですが、何故そのようなことを?その…あなたは目が見えるのに」

聞いた先輩に、男性は悲しそうな目をして、寂しそうに笑った。

「僕達は色がどういうものか知ってます。りんごの赤、一色だけじゃなくて黄緑っぽいのもあるとか…。雲は白くて、雨は透明。色を知らない姉にそれを伝えることはできません」

「ねぇ」

お姉さんがまた私達のほうに顔を向けた。
目が合わないお姉さんには私達の中にある本質を声で見抜こうとしているみたいな気配があってドキッとする。

「雨はどんな感じ?お米みたいな粒?それとも糸みたいなの?」

「それは…」

「気分です」

言いかけた先輩を遮って、私はお姉さんの前まで行った。
しゃがんで、「こっちです」って囁いた私のほうにお姉さんが顔を向けて、ちゃんと私の位置を見下ろした。

「手に触れても?」

「えぇ」

本郷先輩と男性がジッと私を見守っている。

「正しくは音とか、肉眼では認識できない物を見る為の機械とか使えば見えるのかもしれません」

「あなた達にも分からないの?」

「どうですかね?他の人は認識してるかもだけど、正直はっきり認識できてるかって問われたら私には分かりません」

「そうなの」

「雨の音は分かりますか?」

「もちろん」

「窓を叩く雨、風の音。地面から跳ね返るピチャピチャって音。いろんな音がありますよね」

「そうね。音が激しい時はなんだか痛そう」

「強い音がする時はこんな感じ」

女性の手の平を人差し指で太めの線を何回も強めになぞった。

「なんとなくパラパラーって静かな音の時は…」

今度は粒を手の平に降らせるみたいに、トントンって指先でした。

「私はこんな感じかなって思ってる。感じ方は人それぞれなんです。だからこれが絶対正解ってわけじゃないかな」

「あなたにはそんな風に感じてるのね」

「はい」

「じゃあ色はどう?」

「んー、これは難しいですね」

私はちょっと考えてから、男性を見た。
私とお姉さんのやり取りを心配そうに見つめている。
< 97 / 236 >

この作品をシェア

pagetop