だって、そう決めたのは私
「こんにちは」
「おぉ、宏海」
「まぁくん、おばちゃんどう?」
「ピンピンしてるよ。心配し過ぎて、父さんの方が参りそうだわ。今二人で散歩行ってる」

 まぁくんは、ちょっと苦笑いだ。あれから一週間。両親の様子を目の当たりにし、気持ちもそこそこ落ち着いたのだろう。思ったよりも普通で、安心した。

「ホントだったんだ。おじちゃんの心配性。カナちゃんから聞いたけどさ、半信半疑だった」
「あぁ、そうなんだよ。利き手じゃねぇから、他の部位に比べりゃ、そこまで不便なことも少ないんだろうけど。あれこれ世話焼いてるわ」
「いいことじゃない。羨ましいよ。ねぇ」
「あぁ……まぁな。でも親だからな。微妙だぞ、正直なところ。想像してみろ」

 そう言われて上を向く。想像したけれど、確かに微妙かもしれない。だから、まぁねぇ、と適当に笑っておいた。もう彼は、僕のココアを作っている。今日もコーヒーを飲めそうにない。

「あ、宏海。あれ、どうなった?」
「ん。あ、腕時計? そろそろ仕上がるよ」
「おぉ、そうなんだ」
「うん。でもさ、こう一大事に使用すると思うと悔いないようにしたいじゃん。ラッピングとか色々検索してさ。物揃えたりして、結構大変」
「あぁ、そうだよなぁ。買っちまえば、ピンクかブルーかくらいの選択で済むけど。そういうのも一からするんだもんなぁ」
「そ。一応、仕事で使ったりするグッズもあるからね。色々やってはみたんだけど。なかなか、しっくり来なくって」

 静かに置かれたココアを黙って手に取った僕は、口を付ける前に、その表面をじぃっと見つめていた。カナちゃんからのお願いが、また頭を過っている。

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