だって、そう決めたのは私

第60話 末永く一緒に

 一昨日だったか。宏海に「玉子焼きは誰に作るの」と問われた。ずっと気になっていたのだろう。おうずと下から窺うような目が、そう物語っていた。ちゃんと暁子との作戦通り、両親にだよ、とスムーズに返答は出来たけれど。意識をして多少硬くなってしまった気がする。でも宏海が変に疑う様子もなかったし、まぁ大丈夫だったのだろう。 

「カナちゃん、ごめん。待った?」
「おぉ、茉莉花。大丈夫だよ」
「良かった」

 茉莉花から連絡が入ったのは、昨日の夜のことだった。今日は会社へ行く日なのだが、その後に会えないかという。特に用事もなかったし、こうして待ち合わせたわけだ。少し広めのカフェは、勉強している人がいたり様々。私は隅の席を陣取って、コーヒーを飲んでいた。走ってきたのか、茉莉花は少し肩で息をして、店員にミルクティーを注文する。そうして、ゴクリと水を飲んだ。

 何かあったのかもしれない。ちょっとだけ顔が強張っているように見えた。

「どうした?」
「あぁ……ううん。何も無いんだけど」

 そう答えて、彼女は髪に意識を飛ばす。言い出しにくい話か。それとなく想像できる核心には触れず、大学のことや最近の流行りのことなんかを聞き始めた。そうするといつものように、茉莉花は表情をくるくると変えて話に乗ってくる。もう成人したとは言え、まだまだ子供だ。彼女の話しやすい雰囲気を作らなければいけないな。

 しばらく楽しくおしゃべりをして、彼女の手元にミルクティーが届いた。それを幸せそうに一口飲んでから、茉莉花がまた顔を強張らせ下を向く。
 
「カナちゃん」

 重々しく開いた口が私を呼ぶ。だけれども、話は続いていかない。私は静かに、もう冷めてしまったコーヒーを無意味に混ぜた。この時間は、彼女の躊躇いだろう。きっと、吐き出す言葉を順番に並べている。
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