だって、そう決めたのは私
「……ごめんね、来ちゃって」
「会っちゃったの?」
「そう……改札出て、実家の方へ歩き始めたところでね。目が合っちゃって。アトリエに行くんですよねって、案内しますって、あまりに笑顔で言われたから、断れなくなっちゃって」
「ふふふ、思い浮かぶ。じゃあ折角だから、上がって。コーヒーくらい飲んで行かない? 僕も仕事終わるから送るよ」
「そう? ありがとう」

 お邪魔します、と彼のアトリエに足を踏み入れる。今まで入ったことのない、彼のテリトリー。何だかちょっと緊張する。本当はあまり今、彼との思い出を増やしたくないけれど。きっとこれが最後だから、と言い聞かせて、私はブーツを脱いだ。

 いつか宏海に気持ちを伝えたい。それは日に日に強くなっているけれど。まずは明日、カナタを両親に会わせてからだ。でないと、心の準備が出来ない。両親は喜ぶだろうか。いや、喜ぶはずだ。何度も自問自答してきた。大丈夫。大丈夫。

 明日が終わったら、また色々考えなくちゃ。宏海にはどうやって伝えよう。私の気持ちを伝えて、カナタの話をして。いや、それでは断りにくくなるか。まずは自分の気持だけだな。よし、その準備をしよう。あぁそれから、今の生活が終わる覚悟もしなくちゃいけない。


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