だって、そう決めたのは私
「何だって、匡」
「ブンタ連れて行ってもいいかって」
「あぁ、いいんじゃない。ちゃんとフェンスも作ったし。樹里(じゅり)ちゃんも来られたら良かったけど」
「そうだねぇ。でも平日だから」

 匡もまた、結婚が決まった。隣の部屋の、あの子だ。

 あれは、二週間くらい前の、カレーの発売日の夜のことだった。夕食を食べ始めてからそれに気づいて、食後に宏海が買いに出たのだ。「羽根が閉まっていたから、スーパーでカレーを買って帰るよ」って電話をしていたら、ブンタを見つけた宏海。事件が起こったのは、ひと撫でしてから帰るねって電話を切った後だった。匡が女の子といることに気づいた時は、もうブンタと目が合っていて遅かったのだという。少し話をして、匡に追い払われて。でも見届けなきゃ、って勝手な使命感で、影に隠れて見守ったのだそう。すべて聞こえたわけじゃないけれど、あの二人上手くいったよ、と興奮して帰ってきた宏海。勝手に二人でハイタッチして、我が家で祝杯をあげたんだった。それから私も一度だけ、樹里ちゃんと会った。とても可愛らしいお嬢さんだった。本当に匡でいいの? と真剣に聞いて、匡に銀色の盆で頭を叩かれたのは、今もまだ許していない。

「ブンタも来るんじゃ、樹里ちゃんに仕事終わったら来ないかって誘おうか」
「あ、いいね。まぁくんが嫌がるかな」
「あぁ……狭量な男だからねぇ」
「でも、カナちゃんには惚気てるんでしょ。僕にはさ、いつもお兄ちゃんぶって澄ましてるのに」

 ムスッとした宏海は、匡に電話をかける。来てもいいって、と言う口ぶりは、それでもやはり嬉しそうだった。本当に大事な人なのだろう。素直にそう思えるほどに。
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