だって、そう決めたのは私
終 だって、そう決めたのは私
「カナちゃん、コーヒー入ったよ」
「あ、ありがとう」
リノベーションを終え、引っ越しして一月。そろそろ秋になろうとしている。ここでの生活は、緩やかな時間だ。花や緑を植え、生育を見守るのが細やかな楽しみになった。すでに高齢者のようだな、とか思われるかも知れないけれど。五十過ぎた新婚の楽しみなど、こう穏やかであっていい。
暁子たちも結婚をし、少し前に同居が始まったばかりだ。春に茉莉花が家を出て、少し改築をしてから、五十嵐くんが引っ越した。その方が茉莉花も渉くんも気にしなくていいでしょ、というのが暁子の考えだ。まぁ上手くいっているのならば、それでいい。ただ私はまだ暫く、五十嵐くんの惚気話を聞かなければならなそうだけれど。
「あ、カナタ来るって」
「ホント。じゃあ、ご飯の量増やさないとね。あの子、まだよく食べるから」
「ふふふ、ありがとう」
すっかり『お父さん』が気に入った宏海。こうやって、カナタを可愛がるのが楽しいようだ。宏海の今の目標は、カナタに『お父さん』と呼ばれること。『宏海さん』と呼ぶことにしたカナタと、静かな攻防戦が行われるのも微笑ましい。仕事の方は担当替えになって、今や彼らの付き合いはもう家族だけである。
「カナタくん、好き嫌いあるかな」
「あぁ、どうだろう。昔は人参も食べられなかたけど、今は食べられるしな。私はまだまだ、あの子を知らないからなぁ」
「カナちゃん……ごめん」
「え? やだ、何で。謝らないでよ。これから知っていかないといけないなって話よ。それだけ。そんな顔しないの」
シュンと項垂れた夫の頭を撫でる。そうしたらすぐに晴れた顔をして、宏海がチュッと私の頬に口づけた。最近は、だいぶ慣れたものだ。
「どうした?」
「えぇ、何でもないよ。したかっただけ」
宏海は、鼻歌でも歌い出しそうだ。そっか、と応じた私も、幸せだなと思った。ふふふって笑い合ってたら、宏海が急に、ガサガサとポケットを漁り始める。「あ、まぁくんだ」という顔は、以前と変わりない。ただ私がそれを落ち着いて見られるようになっただけだ。
「あ、ありがとう」
リノベーションを終え、引っ越しして一月。そろそろ秋になろうとしている。ここでの生活は、緩やかな時間だ。花や緑を植え、生育を見守るのが細やかな楽しみになった。すでに高齢者のようだな、とか思われるかも知れないけれど。五十過ぎた新婚の楽しみなど、こう穏やかであっていい。
暁子たちも結婚をし、少し前に同居が始まったばかりだ。春に茉莉花が家を出て、少し改築をしてから、五十嵐くんが引っ越した。その方が茉莉花も渉くんも気にしなくていいでしょ、というのが暁子の考えだ。まぁ上手くいっているのならば、それでいい。ただ私はまだ暫く、五十嵐くんの惚気話を聞かなければならなそうだけれど。
「あ、カナタ来るって」
「ホント。じゃあ、ご飯の量増やさないとね。あの子、まだよく食べるから」
「ふふふ、ありがとう」
すっかり『お父さん』が気に入った宏海。こうやって、カナタを可愛がるのが楽しいようだ。宏海の今の目標は、カナタに『お父さん』と呼ばれること。『宏海さん』と呼ぶことにしたカナタと、静かな攻防戦が行われるのも微笑ましい。仕事の方は担当替えになって、今や彼らの付き合いはもう家族だけである。
「カナタくん、好き嫌いあるかな」
「あぁ、どうだろう。昔は人参も食べられなかたけど、今は食べられるしな。私はまだまだ、あの子を知らないからなぁ」
「カナちゃん……ごめん」
「え? やだ、何で。謝らないでよ。これから知っていかないといけないなって話よ。それだけ。そんな顔しないの」
シュンと項垂れた夫の頭を撫でる。そうしたらすぐに晴れた顔をして、宏海がチュッと私の頬に口づけた。最近は、だいぶ慣れたものだ。
「どうした?」
「えぇ、何でもないよ。したかっただけ」
宏海は、鼻歌でも歌い出しそうだ。そっか、と応じた私も、幸せだなと思った。ふふふって笑い合ってたら、宏海が急に、ガサガサとポケットを漁り始める。「あ、まぁくんだ」という顔は、以前と変わりない。ただ私がそれを落ち着いて見られるようになっただけだ。