だって、そう決めたのは私
「私はね。今日、お父さんとも君とも初めましてだし。そんな人に何でも話すなんて、無理だと思うの。でもね、今少し話しただけで、直くんがとっても動物が好きなことは伝わってきた。だから、そこは誤魔化さないで欲しいな。動物のお医者さんとしては」
ね? と出来るだけ優しく微笑みかける。真っ直ぐに、こちらを見つめる純粋な瞳。口元が本当に僅かに緩み、彼は静かに頷いた。工房から出たデッキの端に二人で座り話したのは、動物のことばかりだ。獣医としては、こういう少年の夢を応援してやりたくなる。
「僕は……動物が好きです。とても。大人になったら、動物園とか……」
そしてまた、彼は言い淀んだ。躊躇っているのだ。発することに、罪悪感を感じているような、そんな気がした。だから少し声量を抑えて、工房へ聞こえないように言葉を選んだ。
「動物園かぁ。うんうん、おばちゃんも憧れた」
「本当ですか」
「うん。だって、ゾウとかキリンとかトラとか。かっこいいじゃない。大きいし。それでいて、瞳が綺麗。あの子達はどんな体の作りになってるんだろう。どうやって健康が守られているんだろうって、調べたりしたよ。図書館でいっぱい本を借りてね」
本当に昔の話だ。今みたいに、インターネットで簡単に答えが調べられなかった時代。重たい図鑑やシートン動物記なんかが愛読書だったのも懐かしい。
「直くんも、色々調べたりする?」
「はい。本はあまり借りたりしてないですけど。こっそり……ネットで調べたりはしてます」
「こっそり、なんだ」
「そう、ですね。あまりお父さんに……知られたくなくて」
「そっかぁ。こっそりじゃ、大変だねぇ」
彼はまた、下を向く。
今日、ここへ来たのは宏海の要望だった。井上さんが何かに悩んでいる気がする、と心配だったようだ。彼にとって、作家仲間と言うよりも友人なのだろう。私が来ることに抵抗はあったけれど、《《偶然にも》》井上さんの担当だというカナタも来ていたし、その緊張もだいぶ和らいだ。息子の仕事ぶりを眺める私に、凄く嫌そうな顔をされたけれど。図らずも、叶わなかった授業参観をしている気分を味わっていた。
ね? と出来るだけ優しく微笑みかける。真っ直ぐに、こちらを見つめる純粋な瞳。口元が本当に僅かに緩み、彼は静かに頷いた。工房から出たデッキの端に二人で座り話したのは、動物のことばかりだ。獣医としては、こういう少年の夢を応援してやりたくなる。
「僕は……動物が好きです。とても。大人になったら、動物園とか……」
そしてまた、彼は言い淀んだ。躊躇っているのだ。発することに、罪悪感を感じているような、そんな気がした。だから少し声量を抑えて、工房へ聞こえないように言葉を選んだ。
「動物園かぁ。うんうん、おばちゃんも憧れた」
「本当ですか」
「うん。だって、ゾウとかキリンとかトラとか。かっこいいじゃない。大きいし。それでいて、瞳が綺麗。あの子達はどんな体の作りになってるんだろう。どうやって健康が守られているんだろうって、調べたりしたよ。図書館でいっぱい本を借りてね」
本当に昔の話だ。今みたいに、インターネットで簡単に答えが調べられなかった時代。重たい図鑑やシートン動物記なんかが愛読書だったのも懐かしい。
「直くんも、色々調べたりする?」
「はい。本はあまり借りたりしてないですけど。こっそり……ネットで調べたりはしてます」
「こっそり、なんだ」
「そう、ですね。あまりお父さんに……知られたくなくて」
「そっかぁ。こっそりじゃ、大変だねぇ」
彼はまた、下を向く。
今日、ここへ来たのは宏海の要望だった。井上さんが何かに悩んでいる気がする、と心配だったようだ。彼にとって、作家仲間と言うよりも友人なのだろう。私が来ることに抵抗はあったけれど、《《偶然にも》》井上さんの担当だというカナタも来ていたし、その緊張もだいぶ和らいだ。息子の仕事ぶりを眺める私に、凄く嫌そうな顔をされたけれど。図らずも、叶わなかった授業参観をしている気分を味わっていた。