政略婚姻前、冷徹エリート御曹司は秘めた溺愛を隠しきれない
(そうよ、あそこで会ってる)
あれは今から一年くらい前だ。今日のような格好をした貴俊が、部屋を探しに片野不動産を訪れた。
普段のスーツ姿と今のラフな格好が結びつかず、これまで全然気づかなかった。
「行った」
「やっぱり」
でもあのときは彼の希望に見合う物件がなく、空振りに終わっている。そもそも片野不動産では貴俊が住むような超高級物件の取り扱いはない。
「言ってくださればよかったのに」
顔合わせのときが初対面だと思っていた。
「覚えていないのならそれでいいと。まぁ半ばいじけてたかな」
「ごめんなさい」
「ってのは冗談。でも思い出してくれてうれしいよ」
「ですが、どうして片野不動産に?」
桜羽グループには不動産会社もある。高級物件を探すならそちらだろう。
あのときはそれでもなんとかいい物件を紹介しようと、中でもランクの高い部屋をあれこれ紹介した覚えがある。