政略婚姻前、冷徹エリート御曹司は秘めた溺愛を隠しきれない

「もちろん。着ておいで」


貴俊が笑顔で頷く。
彼と一緒にウォークインクローゼットに行き、明花は再び整理を開始。貴俊は着替えのためのスーツを手にしてからリビングへ戻った。

それにしても贅沢な空間である。洋服やバッグなどに十二畳も使われているのだから。
実家で明花が与えられていた部屋は四畳半だった。それも収納スペースとして造られた部屋だったため窓がない。

愛人の娘が住まわせてもらっているのだから、ひとりの部屋があるだけで幸せに思いなさいと義母にきつく釘を刺されたこともある。
そんな当時の暮らしから考えると、ここでの生活は天国以上と言っていいかもしれない。

(雪平家から連れ出してくれた貴俊さんへの感謝は絶対に忘れずにいないと)

貴俊を支え、いい妻になれるよう心掛けようと改めて思いながら腕時計を確認する。

(あっ、そろそろ準備に取り掛かかったほうがいいかな)

約束の時間は六時。ヘアメイクも少し手直ししたい。ハンガーラックからドレスを手にして、早速着替えに取り掛かる。試着と合わせて三度目の着用ともなれば手慣れたものだ。
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