政略婚姻前、冷徹エリート御曹司は秘めた溺愛を隠しきれない
貴俊は大きな串に豪快にかぶりついた。
「そうですよね。それじゃ私も」
遠慮なく串を持ち、明花も彼に倣う。
柔らかい肉は何度か噛んだだけで溶けて消えた。
「……おいしい。飲み込んでないのに、お肉がどこかにいってしまいました」
驚きを口にすると、貴俊が笑みをこぼす。
「それじゃ、いくらでも食べられるな」
「ほんとですね」
「たくさん用意してあるから、どんどん食べて」
「ありがとうございます」
串を手に取った明花は、不意に顔を曇らせた。
(私、ここまでよくしてもらっていいのかな……)
慣れない幸せを前にして、ふと不安が押し寄せる。
世間の人たちが家族みんなで祝う誕生日もクリスマスもお正月も、ひとりぼっちの思い出しかない。義姉の笑い声を遠くに聞きながら、窓のない狭い自室で膝を抱えていた。