政略婚姻前、冷徹エリート御曹司は秘めた溺愛を隠しきれない
「ちょっとお母さん、五千万ってなにしてるのよ!」
「なにって、ちょっと借りただけじゃない。あとで返そうと思っていたのよ!」
「そんな大金、どうやって返すのよ!」
「このお店の売上でなんとでもなるわよ」
ついにふたりは言い合いをはじめてしまった。
声を荒げたため、店内の注目を一点に集める。取り乱したオーナー母娘をどうしたらいいのかわからず、店のスタッフも遠巻きに眺めるだけだ。
「それは無理な話でしょうね」
貴俊が冷静に返す。
「この店のスタッフは全員、私が引き抜きましたから」
「……え?」
言い争いをぴたりと止めたふたりが、瞬きも忘れて貴俊を見た。
「ちょうどレストランの開業を控えていたので、みなさんにそちらで働いていただきます。一人ひとりと面談も済ませ、快く応じていただいています。こちらよりいい給料を提示したので、誰ひとり残らないでしょうね。募集する手間が省けて助かりましたよ」