政略婚姻前、冷徹エリート御曹司は秘めた溺愛を隠しきれない
まるで駄々を捏ねているみたいだ。
「そうですか。ふふ」
「なに」
「いえ、なんでもないです」
伸ばしてきた彼の手をすり抜け、早足で桜羽ホールディングスのエントランスに向かう。
「こら、明花」
貴俊が追いかけようと足を大きく伸ばしたところで――。
「副社長、お疲れ様です」
ビルから出てきた男性社員が、すれ違いざまに貴俊に声をかけてきた。
瞬時に表情を切り替え、彼が仕事モードにシフトする。
「お疲れ様」
たったひと言、労いの言葉をかけただけなのに、シャープな目元が凛々しくて、振り返った明花はそんな姿につい見惚れてしまう。