政略婚姻前、冷徹エリート御曹司は秘めた溺愛を隠しきれない
仕事中の彼を見るのが初めてだからか、社員に挨拶をしている程度でも胸に迫るものがある。
貴俊の職場に足を運ぶことなどなかなかないだろうから、貴重な機会を大切にしようと思いつつ、彼と並んでエントランスの自動ドアをくぐった。
三階層の吹き抜けに圧倒される。道路に面したガラス張りの壁から光が射し込み、とても明るい。左手の壁にある桜羽ホールディングスのコーポレートロゴマークを見て、わけもなく誇らしくなる。
(ここが貴俊さんの会社なんだ……)
今は副社長だが、年明けには現社長である貴俊の父親が会長に退き、社長就任が決まっている。若き社長として大きな責任を負うプレッシャーもあるはずなのに、貴俊はそれを微塵も感じさせず、むしろ自信を漲らせているように見えた。
行き交う人たちが貴俊を見つけ、襟を正して挨拶をする。どことなく緊張感が漂うのは、貴俊から静かな気迫が発せられているせいだろう。空気がピリッとする。
でもそれは決して嫌なものではなく、背筋が伸び、気持ちが引きしまって心地いい。
ただそれも束の間。彼らの視線が明花に集まるようになると、腰が引けてくる。
「もしかして副社長の奥さん?」
「きっとそうだよね」