政略婚姻前、冷徹エリート御曹司は秘めた溺愛を隠しきれない
あとで貴俊に自分から支払おうと心に留める。
支払いの心配はべつにして心が弾むのは、今まで着たことのない洋服を手にしたからだろう。
(貴俊さん、気に入ってくれるかな)
そう考えて彼の反応を想像すると、自然と胸が高鳴る。
その後、ドレスと一緒に用意してもらったバッグとパンプスが入った袋を提げ、明花が店を出たときだった。
できるだけ会いたくない人物が、歩道を左手から歩いてきた。義姉の佳乃だ。
喜々としていた気持ちが一気に翳り、途端に足が竦んで動けなくなる。
「……明花?」
数メートル先で気づいた佳乃が訝しげに近づいてきた。
逃げたいのに体が硬直して動けない。
「ちょっと待って、どうして明花がここから出てくるの? 明花が来られるような店じゃないでしょう?」
セレクトショップと明花が提げている紙袋を、嫌味っぽく目を細めて見やる。