政略婚姻前、冷徹エリート御曹司は秘めた溺愛を隠しきれない
「……帰ろ」
自分に言い聞かせるように呟き、アスファルトにくっついていた足を引きはがし駅に向かう。
(大丈夫、私は平気)
ショップバッグを握りなおし、いつもしていたように強引に気持ちを切り替える。
(大丈夫、大丈夫)
呪文のように心の中で唱え、自分で自分を慰めた。
電車に揺られながらメッセージアプリで貴俊とのトークルームを開く。
【お仕事お疲れ様です。無事にドレスを準備できました。ありがとうございます。代金はあとで精算させてください】
そのメッセージに返信がきたのは、明花がアパートで夕食を終えたときだった。
【代金は気にしないでほしい】
【いえ、私が着るものですからそういうわけにはいきません】
反論は珍しいが、さすがに今回は彼に従えない。自分のものを買ったのだから支払わないのはおかしいから。