嫌われ者で悪役令嬢の私ですが、殿下の心の声には愛されているみたいです。

10

 パラソルが広がる庭園のテーブルの下で、オルフレット様は正面の席には座らず、椅子をずらしてロレッテの横へ優雅に座った。

 ――どうしても、私に苺を食べさせたいのですね?

「ロレッテ嬢、好きな苺を持ってきた」

〈さぁ、食べてくれ〉
(まあ、一段と嬉しそうな心の声……それに、こんなに大きな苺を選ぶなんて)

 子供のような彼に少々戸惑いながら、ロレッテは口を開けた。

「……んんっ、おいしい」
「よかった、もう一つ召し上がれ」

 もう一つ、もう一つとロレッテが断れないと知っている彼は、大きめの苺ばかりを選び口に運ぶ。

〈食べる姿も可愛い、ズッと見ていたい〉
(うう、恥ずかしい……ですわ)

「ロレッテ、次の苺だよ」

 いいえ、今度はオルフレット様にも同じ目(恥ずかしめ)にあってもらいます。と彼のフォークを奪い、大きめな苺を彼の前に微笑んで差し出した。

「オルフレット様もお一つどうぞ。アーン」

〈ロレッテが、僕にアーンだと!〉
(さぁ、オルフレット様も私と同じ目にあわせますわ)
 
 意地悪を含めた苺が、オルフレット様の口の中にはいる。

「グッ……!」

 やはり、大きすぎた苺はオルフレット様の口に入り切らず。口元をハンカチで拭こうとしたのだが、差し出したハンカチは取られてしまい。勢い余った、私の指は彼の唇をぷにっと押した。

〈あっ⁉︎〉
(⁉︎)

 2人とも驚き、一気に顔を赤くする。

「……すみません、オルフレット様」
「いいや……ハンカチを取ったボクが悪い」
 
 彼の頬が真っ赤だ。ほんの少し、頬が赤らんで優しく微笑む事はあったけと。こんなに真っ赤で、照れた表情は初めだった。
 
〈綺麗なハンカチを汚したくて……ロレッテの可憐な指がボクの唇を触った。落ち着けボク。あ、ダメだ。顔が熱い……いつものボクに戻らなくてはロレッテに嫌われてしまう〉

(いつものオルフレット様ではないと、私に嫌われる? どうして!そんなことおっしゃるの? 私がオルフレット様を嫌うはずなどないのに)

 私は、大人びた表情のオルフレット様も好きだけと――こんなにも照れるオルフレット様は可愛い。

〈頬の熱がさがらない、落ち着くんだ……ロレッテの前では落ち着いた自分でいたい……〉
 
(私は……いろんなオルフレット様を見たい)

「どうされたのですかオルフレット様? 早く苺をください」
 
「えっ、ロレッテ嬢⁉︎」

〈今のボクに、そんな可愛い顔を向けるとは……〉

 ほんとうは恥ずかしいし、言い方だって失礼なのだけど、私はオルフレット様の前で口を開いた。彼はそんな私をほっとけず、赤い頬のままで一口で食べられる小さな苺をくれた。

 ――オルフレット様の困った顔もいいですわ。

「ふふっ、美味しいです」
「そうか……ロレッテ嬢、ボクにもくれるかい」

「はい、アーン」 

〈これだ……ボクはこの癒しを求めていた。ハァ、王城になど帰りたくない。――しかし、城で一人耐える父上を支えなくては。ロレッテの父、宰相のコローネル公爵が父上を助けてもらいたいが。今の父上は巻き込まないよう、人を遠ざけているからな〉

(え、国王陛下が人を遠ざけている?)
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