嫌われ者で悪役令嬢の私ですが、殿下の心の声には愛されているみたいです。

18

 どうして、第二王子オルフレット様の婚約者のロレッテが、王妃教育を受けていたのかというと。オルフレット様の兄上で、今年24歳になる前王の息子の皇太子がいらっしゃるのだが……彼にはまだ婚約者がいない。

 昔はいらしたらしいのだけど、皇太子が婚約者のご令嬢を嫌がり……ご令嬢の心を傷付けたため、陛下が婚約の破棄をしたと聞いている。

 国王主催の舞踏会、晩餐会など――滅多なことがない限り、表に顔を出さないルルーク皇太子。でも、オルフレット様はルルーク皇太子が好きで、子供の頃からよく「お兄様が」と話してくれた。

 ――お優しくて、花が好きな皇太子だと聞いている。
 


 ❀


 
 翌朝、ロレッテは早めに屋敷を出て学園に向かった。
 まだ、学生もまばらな登校の時間に着き、馬車着き場から離れた位置で、ロレッテはオルフレット様のご到着を待っていた。

(昨夜、お父様とお母様がおっしゃっていた、オルフレット様がお疲れで、お痩せになったかを確かめるの。他の学生に好奇な目で見られても気にしない)

 昨日、オルフレット様とのお茶でロレッテは舞い上がり、彼の体調の変化に、気付けなかったことが悔しかったのだ。

(少しの間……離れていたからだなんて、言い訳を言いたくないの)

 一台の金の装飾、黒塗りの馬車が校内に入ってくる。あ、オルフレット様が乗る馬車が学園にご到着した。ロレッテははやる気持ちを落ち着かせ、彼が馬車から降りてくるのを待っている。

 その馬車は速度お落とし、馬車着き場に止まった。御者が御者席から移動して馬車の扉を開け、先に執事姿のカウサ様が降り敬礼する。その後にオルフレット様が降りてきて、敬礼を解いたカウサ様と二言三言、言葉を交わしている。

 オルフレット様の顔色は? 
 もっと、お近くに寄ってもいいかしら? 
 
 ロレッテの位置からはわからない。知らずのうちに足はオルフレット様の方に進み、お二人の近くへ近付いていたけど。カウサ様と大切な話をされているのかもと……近くの木に隠れて話けられずにいた。

〈フフ、ロレッテそんな所に隠れて、ボクに近付きたくても近づけないのかな? ソワソワして、まるで猫みたいに可愛い。気にせず、近くにきて欲しいな〉

(猫⁉︎ ……ああ、気付かれましたわ)

 その言葉に照れながらも表には出さず、木から出て何も無かったかのように、オルフレット様の方へと歩み寄った。
 
「オルフレット様、カウサ様、おはようございます」

「おはよう、ロレッテ嬢」
「おはようございます、ロレッテ様」

「オル……」

 挨拶を交わして、次の言葉を話そうとしたとき「邪魔よ!」と誰かに突き飛され、よろけたロレッテは長いドレスのスカートの裾を踏んだ。

「きゃっ」
〈ロレッテ!〉

 いち早く動いたオルフレット様が手を伸ばし、よろけて、倒れそうなロレッテを抱きとめてくれた。

 ――な、なに? 何が起きたの?
 
「ロレッテ嬢、大丈夫か? ケガはないかい?」
「えぇオルフレット様、ありがとうございます」
 
〈ホッ、よかった……今日のロレッテのドレス姿も可憐でいい。ん? ロレッテのどこからか甘い桃の香りがする〉
 
(もも? ……ま、まさか、今朝、朝食でいただいた桃の香り!)
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