嫌われ者で悪役令嬢の私ですが、殿下の心の声には愛されているみたいです。

19

「オルフレット様、それは今朝いただいた…………桃です」

 恥ずかしさの余り、答えてしまう。
 オルフレット様はハッと、口をつぐみ。
 
「すまない、口に出していたか」
「美味しい桃でしたもの。私は気にしませんわ」

 ロレッテをすっぽり包み込む、オルフレット様に向けて微笑んだ。

〈そう言ってはくれたが。ロレッテの頬が赤く染まってる、さすがに桃の香りはまずかったか? ロレッテに会えて、浮かれてしまったようだな〉

(……私も浮かれています)


 フウッと――オルフレット様は息を吐くと、ロレッテを抱きしめながら、メアリスさんを冷めた瞳で見つめた。
 
「メアリス嬢。ボクの婚約者を突き飛ばしておきながら、誤りもしないのか?」

 メアリスさんはそう言われても、全く気にせず、何がおかしいのかケラケラ笑った。

「ハハっ、ちょっと、ぶつかっただけじゃない。倒れそうになるなんて、悪役令嬢ロレッテが大袈裟なだけ……ほんとあざといんだから。こんな、あざとい悪役令嬢といるより、あたしとテラスに行きましょう」

「ハァ?」

〈ロレッテがあざとい? なっ、なんたる物言い……不愉快だ〉

「ほら、早く行かないと。あたしが"また"悪役令嬢にいじられちゃうぞ」

〈……君がいじめられる? その事についてしっかり調べた。ロレッテが、君をいじめていたという証拠は一切出てこなかった。なぜ、"嘘"をつくのかわからない〉

(ありがとうございます、いじめの真実を調べてくれたのですね。オルフレット様は私が彼女をいじめていないと、知ってくださっている)

 それだけで心強い。


「その話だが……メアリス嬢、そんな事実は無いと聞いている」

「そんなの嘘よ! 父に買ってもらったドレスを汚されたり、教科書だって破られた。それに言葉遣いを直せって、会うたびに悪口ばかり」

〈……ハァ?〉
(まあ、お父様に買っていただいたドレスを汚されたのは私。教科書、言葉遣いは私の知らない話だわ)

「ねぇ、酷いでしょう?」

 オルフレット様は言葉を発しようとしたが「ウグッ」と、言葉と共に息をのんだ。

〈そんな真実は一つもなかった。嘘だと知っているが、メアリス嬢を今、挑発するのはまずい……ロレッテ、すまない〉
 
(オルフレット様……)

 彼の怒りを含んだ声の後に、彼女を挑発するのはまずいと言った。ロレッテの知らないところで、やはり何か起きている、としか考えれない。

 この事を、オルフレット様に聞くことは出来ない。
 お父様、お母様に頼りながら、ロレッテも調べますわ。
 
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