嫌われ者で悪役令嬢の私ですが、殿下の心の声には愛されているみたいです。

26

「ロレッテ、先に行っている。気を付けて来るのだぞ」

「はい、お父様もお気を付けてください」

 早朝、お父様は数人の使用人達をつれて、王城に向かった。一緒に行くはずだったけど、あのあとお父様に「オルフレット様に何か差し入れをしてあげなさい」と言われた。

 ロレッテはお父様を見送ったあと、厨房でオルフレット様の好きな食べ物をコック、リラとで調理していた。

「リラ、このクッキーしまってもいい?」
「はい、この箱にしまってください」
 
 バタークッキー、ラングドシャ、スコーンは前日に焼けるだけ焼いた。あとは苺のジャムと紅茶各種とサンドイッチ。王城で食事を作るためにパン、卵、ハム、チーズなどを準備して、大きめのバスケットにその食材を詰め込んだ。

 オルフレット様に必要かもと替えのシーツ、新品のシャツなども思いついたものをトランクケースにつめて、荷馬車に乗せた。ロレッテ達の準備も終わり馬車で登城する。

(オルフレット様、いま向かいますね)

「リラ、準備はいい?」
「えぇ、ロレッテお嬢様」

 途中、休憩を挟みながらの登城だから、王城までは1時間くらいかかる。御者に「食べてください」とサンドイッチを渡し、挨拶をしてリラと馬車に乗り込んだ。

 


 ❀




 移動中は何事もなく、ほぼ時間通り王城に到着した。
 先に城へと向かったお父様に、いつもの通り表から入るのではなく、王城の裏手から入った方がオルフレット様の執務室が近いと聞いている。

 御者が馬車を城の裏手に回すと、お父様から通達があったのか裏手の入り口に、カウサ様が私達の到着を待っていた。馬車が止まり、リラの手を借りて馬車を降りて挨拶する。

「ごきげんよう、カウサ様」
「ごきげんよう、ロレッテ様。コローネル公爵から話は聞いております」

「でしたら、持ってきた荷物があるので運んでください」

「はい、かしこまりました」

 馬車から料理が入った大きめのバスケットはリラが、シーツなどが入ったトランクケースはカウサ様が持ち。オルフレット様の執務室ではなく、伝えておいた空き部屋へと案内してくださる。

 ここ――オルフレット様がいらっしゃる別棟は、王妃教育で通った王城よりも古い建物に感じた。

(壊れたシャンデリア、埃と壁の汚れ……余り掃除もされていないみたい)

 前を歩くカウサ様が、一部屋の前で止まり頭を下げた。

「ご用意した部屋です。私は外で待っていますので、終わりましたら声をかけてください」

 通された部屋でリラに手伝ってもらい、メイドに扮装した。登城のお許しが出たあと、お父様に言われたのだ。

『ロレッテの登城は陛下と、オルフレット様とカウサ様だけが知っている。いま城は何かと危ないと聞いていてな、他の者に見つからないよう注意したほうがいい』

『わかりましたわ、お父様』

 だから、馬車を城の裏手に回したのは、オルフレット様の執務室が近いのもあるが。ロレッテが王城に来たことを、他の者に知られないようにするためだ。
< 28 / 70 >

この作品をシェア

pagetop