【SS】夜に堕ちる
すべてに疲れて、うとうとしていたころ。近くで聞こえた声は、やはり吐息が多く混じったやわらかい声だった。
重い頭を持ち上げて上を見ると、ライトブラウンに染まったウェーブヘアに、目尻の垂れた瞳をした、女性受けのよさそうなひとがいた。
左目の下に涙ボクロがあるな、なんて思って。
「家に帰らないと、親御さん、心配しちゃうよ」
「…大丈夫だよ、ストレスのはけ口は探してるかもしれないけど」
自分では礼儀正しい方だと思っていたけど、真央には、年上と分かっていてもため口を利ける、ふしぎな雰囲気があった。
「ふぅん…もしかしてきみ、家出してきたの?」
顔も見ずに、こくりとうなずいた。
そんなことを話したところで、現状がよくなるとも思っていなかったけど。