888字でコワイ話

第11話「猫は知らせる」









公園にはたくさんの猫がいる。

耳が欠けた猫は地域で管理されている地域猫だ。

お気に入りは、口ひげみたいな顔の子。

小学生や子連れのママには、チャップリンとか加トちゃんとか呼ばれている。

私はシンプルにヒゲ猫と呼んでいた。



ある日、ヒゲ猫の背中に何やら見慣れない模様がついていた。

汚れか怪我かと思ったけれど、近くでよく見たら自然と変色したような感じに見えた。

ヒゲ猫自体もいつもと変わらない。

そのうち治るだろうと思っていたが、日に日に模様が大きくなっていく。

模様というより、アザというかシミというのか、ますます大きくなっていく。

更に数日経つ頃には、見ようによっては人の顔が苦しんでいるような感じにも見え始めた。

いよいよ病気かもしれないと不安になって、役場に連絡した。

地域猫なら何かしら治療を受けさせてもらえるはずだ。



しばらくの間、ヒゲ猫を見かけない日が続いた。

数日後、久々に見かけたヒゲ猫の背中はすっかり元通りになっていた。



「治ったんだ、良かったね」



抱き上げて撫でていると、近所のおじさんがやってきた。

おじさんは地域の見回りをしていて、猫の餌やりを任されている。



「やあ、どうも」

「こんにちは、ヒゲ猫治ったんですね」



おじさんが餌を準備しながら、ちらとヒゲ猫を見た。



「その子のお陰で、孤独死していた人が見つかったんだよ」

「えっ?」



なんでもそれは、ヒゲ猫を可愛がっていた一人暮らしの老婦人だったらしい。

公園のすぐ近所の家で、猫の溜まり場にもなっていたそうだ。

通報でヒゲ猫を探しに来た役所の人が家を訪ねたところ、亡くなっているのを発見したらしい。

それからまもなくして、ヒゲ猫の背中の模様は消えてなくなったそうだ。



「不思議なことがあるんですね……」

「猫は長く生きると化け猫になるとかいうからなあ。 

亡くなった方に恩義でも感じて、知らせようとしてくれたのかもなあ」

「にゃあ」



突然ヒゲ猫が腕から逃げていった。

トトッと少し行った先で、くるりと顔だけこちらを振り向いた。

ドキッとした。





お前のことを見ているぞ。





そう言われた気がした。

人間は猫を見ているつもりでいるけれど、見られているのは人間の方なのかもしれない。

          


                                                     


        
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