888字でコワイ話

第12話「星座はみてる」

 


 わたしはサソリ座だ。

 人間たちの天上にいる。

 最近、私をよく見上げている子供がいて、気になっている。

 数多ある他の人気星座を見ているのかと思っていたが、やたらとよく目が合う。

 どうやら、私に強い興味があるようだ。




 ここしばらくでわかったが、人間の暦で言う月曜日と木曜日には特に長い時間私を見ている。

 なにかあるのだろうが、理由はわからない。

 人間の暦で少なくとも数十年は祈り願い続けないと、我々の元に祈りが届かないからだ。

 それゆえに我々は、簡単に人間に手を貸すことができないのだ。

 ただ、時々泣いているのが気になって仕方ない。

 あの子は私になにを望んでいるのだろう。



 ・・・



 今、あの子の願いが届いた。

 そうか、そういう訳で悲しんでいたのだな。

 よし、手を貸してやろう。

 あの子は今どこにいるのか。

 探してみるとしよう。



 ・・・



 残念だ。

 あの子はもういないらしい。

 他の星座から聞いたうわさでは、どうやら短い人生だったらしい。

 それでなくとも、人間たちの人生は星に比べたら遥かに短いというのに。

 かわいそうに。

 せめて弔ってやってもいいだろう。

 私にはふたつのやり方がある。

 私のしっぽについた針は、未来と過去のどちらかに振り下ろすことができる。

 針を過去に振り下ろせば、あの子を不幸せにした者すべてに毒を食らわすことができる。

 未来に振り下ろせば、あの子の来世で降りかかる苦労や不幸を毒で打ち消すことができる。

 あの子はどちらを望むだろうか。

 いつものことだが、簡単には決められない。

 星座の我々には人間がどう考えるのかがわからないからだ。

 こういう場合、私は占うことにしている。

 たった今、私の下を歩いている人間が、良い行いをするかどうかとか、右と左どちらに曲がるかといったふうに。

 よし、あの人間にしよう。

 あの人間が振り向いたとき男だったら過去に、女だったら未来に針を振り下ろすとしよう。

 人間がぱっとこちらを見た。

 む、あれは……。

 最近人間たちは多様性という生態変異を起こしているとは聞いていたが、あれがそれか。

 私には男とも女とも区別がつかん。

 仕方あるまい。

 今回ばかりは特別だ。

 あの子のために過去と未来、両方に針を振り下ろすとしよう。
                                 






< 12 / 25 >

この作品をシェア

pagetop