888字でコワイ話

第14話 15年前の初夢

 


 5歳の妹の久美には超能力がある。

 いわゆる正夢というやつで、寝ている間に未来を夢に見る。

 俺が自転車で事故った時も、お父さんが昇進して転勤が決まった時も、隣人の真山さん家が商店街の福引でダイソンを当てた時も。

 元旦の朝、家族皆で初詣に行こうと団地を出た時、久美が突然俺の袖を引っ張った。



「お兄ちゃん……、あの人、花ちゃんに怖いことするの」


 久美は、少し離れた公園から団地を見ている知らない男を指した。

 花は近所のよしみで、時々久美と遊んでくれる。

 俺の同小の同級生だ。

 控えめに言って、クラスで一番の美人。

 あの怪しげな男、花に何かするの気なのか……!?

 奇しくもちょうど、花と花の家族が別棟から出てきた。

 やばいぞ……!



「久美っ、どうすればいい!? 警察に通報すればいいのか!?」

「あのね、んとね……」

「早くしろ!」

「花ちゃんと一緒にお参りに行くの」

「花の家族と一緒に行って花を守るってことか?」

「うん」


 早速花に声をかけ、家族ぐるみで一緒に近所の神社に初詣に行った。

 花の隣を歩きながら、周囲に目を配った。



「永太、なんか今日ピリピリしてない?」

「ああ、ちょっとな。花、僕から絶対離れるなよ」

「えっ。う、うん……、でもちっちゃい子供じゃないから迷子になったりしないよ」

「いいから……!」



 下手なこと言って怖がらせたくなかったから、それ以上何も言わずに、花の手をギュッと握った。

 そのお陰か、花はどこにも行かず、怪しい男の姿もいつの間にか消えていた。

 それ以降もできる限り一緒に登下校したりして、花を一人にしないように心がけた。



***



 それから俺たちは、いつしか付き合うようになり……。

 15年後、俺たちは結婚することになった。

 結婚の報告をした時、久美がいった。


「15年前、わたしが見た初夢の通りになったね!」

「そんな話してたか?」

「あれ、言わなかったけ?

 あのときのストーカー、花ちゃんに彼氏がいるってわかってからいなくなったでしょ?」

「彼氏……って、あのときはまだ……」

「だから、あのとき二人の運命の糸が繋がって、お兄ちゃんと花ちゃんは結婚するようになってたんだよ。

 あの日、わたしにはそういう正夢が見えてたの」
                                                           




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