888字でコワイ話
第18話「忠実なバディ」
オンラインのヨガ教室で、先生が愛犬を紹介した。
「皆さんこんにちは。
この子は私の最愛のバディももです。
今日は一緒にやりたいと思います」
わあ、めっちゃかわいいトイプー!
先生のレッスンはいつもほんわかしていて癒されるのに、今日はわんちゃんまで参加とは。
もう好き!
「は~い、気持ちいいところまで伸ばして~、呼吸は止めずに~」
画面越しのももちゃんは先生の周りを回ったり、ふせていたりする。
いいなぁ、私もわんちゃん飼いたいなあ。
その時、スピーカーからガチャンという音がした。
びっくりした様に先生が横を見た。
「皆さん、すみません、ちょっと一旦止めますね~。
ちょっと旦那が来ちゃったみたいで……」
その途端、ももちゃんがバッと駆け出して画角から消えた。
「あっ、もも!」
先生がオンラインを切るのも忘れて追いかけていった。
「クミ、お前何やってんだよ!」
「きゃっ、やめてっ!」
――ガシャーン!
えっ!? まさかDV?
スピーカーから聞こえてくる激しい音に私は強張った。
「ゥウウッ、ガウウウッ!」
「うわっ、よせっ!」
「あっ、もも!」
――ガターン!
えっ、何っ!?
ももちゃん、もしかして旦那さんから先生を守ろうと?
あんなちっちゃいトイプーなのに!
勇敢だよ……!
しばらくすると音がやみ、静かな先生声だけが聞こえてきた。
「はあ~、やっちゃったね……。でも仕方なかったね、もも……」
「クゥ~ン、クゥン……」
ど、どうなったの?
旦那さんの声が聞こえないけど……、もしかして……。
「怖がらなくていいんだよ。ももは何も悪くないんだから」
ほ、本当にまさか、ももちゃんが……。
「おいで~、もも、手当てしようね」
「クウン、クゥン……」
ええっ、ももちゃん、怪我までして……!?
あわわ、早く助けてあげて……!
DV旦那がどうなったかも気になるけど……。
「もも、助けてくれてありがとね。
私も、ももを傷つける奴は許さないからね。
大丈夫。私がちゃんと息の根を止めるから……」
え……?
何をいっているのか私は一瞬わからなかった。
怖くなって思わずオンラインを切った。
他の生徒さん達はどうしただろうか……。
それ以来、怖くて先生のレッスンは受けていない。