888字でコワイ話
第23話「戻るのは何時」
俺のバディ御手洗亜紀(みたらいあき)が隣人の事で悩んでいる。
「刑事なので、いつでも相談して下さいって言ったんですけど、それから毎日のように相談を持ちかけられるようになってしまって……。
それも毎回、深夜0時に」
「業務に支障をきたす恐れがありそうなら、他の課に任せてもいいんだぞ。
それで、なんの相談なんだ?」
「知らない間に誰かが部屋に侵入していて、盗聴器を仕掛けられているって言うんですよ」
「実際に見つけたのか?」
「いえ、見つかってません。
でも冷蔵庫の物がなくやっていたり、物の位置が変わっていたり、買った覚えのない服がクローゼットに入っていたりするそうです」
「それはかなり悪質だな。俺も一緒に話を聞こう」
「わかりました、先方に連絡しておきます」
その夜、御手洗の部屋で隣人が帰宅するのを待った。
「何の仕事をしている人なんだ?」
「公務員だと言っていました」
「いつからこのマンションに?」
「入居時期は私と同じくらいですね」
「名前は?」
「北見愛良(きたみあいら)さんです」
「そろそろ0時だな……」
ちょうど0時になった時、御手洗がパッと立ち上がり玄関に向かった。
何も言わずに外に出てすぐまたドアを開けた。
「あ〜疲れた〜。あっ! やだあ、誰!?」
「は?」
「あ、御手洗さんが言っていた刑事の先輩の方ですね?
すみません、びっくりしちゃって。私、北見愛良です」
「……は? 御手洗、お前何やってるんだ?」
御手洗はきょとんとしたように首を傾げた。
「あれ、御手洗さんは?」
「はあ? だから、お前……!?」
「あのう、この部屋を調べてもらえますか?
御手洗さんに見てもらったときは何も出なかったんですけど、今日も洗ってないのに洗濯物が干してあるし、私の郵便物が一つも届かないんです。
コレって明らかにおかしいですよね?」
その時、俺は瞬間的に理解した。
御手洗は北見で、北見は御手洗なのだと。
御手洗の中に、もう一人の人格があるのだ。
御手洗はその別人格から相談を受けていると思っているらしい。
あまりの衝撃に背筋が寒くなった。
深夜0時で切り替わる二重人格。
どうやったらこの事実を御手洗本人に伝えられるのか。
何時(なんじ)になれば、俺のバディは戻ってくるんだろう……。