私が一番あなたの傍に…
まるで俺達に色々あったことを見透かしているかのような、絶妙なタイミングだ。
そのまま蒼空は、一言告げてからその場を去った。
俺はその場からすぐ離れられず、立ち尽くしていた。
数分後、脳を切り替え、幸奈の元へと向かった。

「お待たせ。幸奈、迎えに来たよ」

俺の顔を見て、幸奈は少し気まずそうな顔をしていた。
俺に見られていないか、心配しているのであろう。

「ありがとう。でもごめん。まだ帰り支度をしてないから、あともう少しだけ待ってて」

「分かった。待ってる」

俺の言葉を聞いて安心したのか、はたまた俺が何も言わないことに安心したのか、幸奈はそのまま中へと戻った。
俺も心の中で安心した。なんとなくあの場に居合わせたことを知られたくなかった。

「お待たせ。支度が整ったので、帰れます」

幸奈が戻ってきた。こういう時ほどいつもより早く感じてしまうのは何故だろう。
幸奈の突然の登場に驚いてしまった。

「お、おう。それじゃ、帰ろっか」

いつもなら手を繋ぐタイミングだが、今日はそれができなかった。
その日は幸奈を家まで送り、俺はそのまま自分の家へと帰った。大学のレポートがあると嘘をついて。
心の中のモヤモヤが抑えきれなかった。こんな自分が情けなくて。蒼空がカッコイイと、不覚にもそう思ってしまった…。

でも、今の俺にできることは、幸奈を信じて待つこと。
どっしりと構えて、幸奈が話してくれるのを待つ。その上で幸奈を優しく包み込む。
その日がくるまで俺は、敢えて知らないフリを続けることにした。それが幸奈のためと思った。
少しでも精神的に成長したい。心に余裕がある男になりたい。
今は俺が踏ん張る時だと信じて、自分の心を落ち着かせた。
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