私の可愛い(?)執事くん

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誕生日の翌朝。
朝一番にお礼を伝える。
「懐中時計、ありがとうございます。
大事にしますね。
・・・実はお祖父様に言われたことがあるんです」
「じいやに?」

ー懐中時計は執事として、男として一人前だと
認められた時に送られるもの。
でも認めてくれても自分が一人前だと思えない内は
身につけるな。胸を張って主の隣に立てると思ったら身につけろー
(ごめん、そんなこと知らないで難しく考えないで
渡しちゃった)

 「俺はまだ一人前だと思えません。
自分がそう思えるまで大事に
保管させていただきます」
「うん、楽しみにしてる。陽が懐中時計をつけて
隣に立ってくれる日を」
柔らかな笑みに期待してくれているのだと嬉しくなる

屋敷を出てお嬢様に水色の花柄の封筒を渡される。
ほんのりと頬が染まっている。
「き、気が進まなかったら読まなくていいから。
じゃあね」

震える声でそう伝えて車に向かって走っていく。
(気が進まないわけないのに)
緩む口元を封筒で隠し
鞄に入れて学校に向かう。

なかなかタイミングが掴めないまま午前授業が終了。
お弁当を食べてから
サッと教科書の間に挟んで
移動教室の音楽室へ。

席は1番後ろの窓側。
まだ誰も来ていない。

丸いシールを剥がして便箋を開く。
手紙には当日に渡さなかった事と、
部屋での出来事についての謝罪。
懐中時計の意味。
お嬢様は「信頼」の意味で懐中時計を送った事。
が綴られていた。

最後に
「これからも執事としてよろしくね」と。
(執事として、か)
がっかりした自分がいる。
足音が聞こえてきて便箋をしまって教科書の間に
挟んだ。

帰宅後、
お嬢様の許可を得て部屋に入る。
「お嬢様、手紙ありがとうございました。」
「読んだんだ」
「もちろんです。嬉しかったです」
照れているのか目を逸らしている姿もとても可愛い。

「陽、少しいい?」
「なんでしょうか?」
「プレゼント、なにか欲しいものないかなって」
「プレゼントなら、」
「懐中時計は私が勝手に選んだ。
陽のリクエストとかは聞いてないから。
あれが欲しいとか。
もちろん、私ができる範囲内でお願い。」
慌てて付け足すお嬢様に愛おしさが溢れる

「急に言われましても、あ、」
「なに?」
「キス、してくれますか?」
「え?」
目を白黒させる彼女。
もちろん冗談だ。

照れるか怒るか、どっちにしろ拒否すると思った。
「なんてすみません。執事としていけませんよね。
ご容赦くださ」
背伸びして首に腕を回されて少し傾いた体。
頬に柔らかな感触。

「これで、いい?」
「は、い」
今朝よりも顔を赤くして俺を見る。
理解した瞬間、顔に熱が集まる。

「では、失礼します」
部屋に戻ってもまだ鳴り止まない鼓動。
(ほんとうに敵わないな)








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