私の可愛い(?)執事くん
試練

渚と付き合って1ヶ月。
5月のゴールデンウィーク。

例年通りなら渚の家に両親が会いにくるはずなのに。
「あの、これはどういうことでしょうか」
全ての使用人の前で俺は正座している。
目は冷たく敵意すら感じる。
いや、薫さんだけは同情の目だった。

「陽、単刀直入に聞く」
「はい」
司さんが腰を下ろして目線を合わせた。
「お嬢様と付き合っているというのは本当か?」
「はい。俺は、渚さんと交際しています」

鉄拳がとんでくる覚悟。
(お嬢様のことが大好きだからな。
俺も司さん側だったら質問攻めにしてると思う)
司さんの上げられた手に目を強く瞑る。

ポンと頭に落とされてガシガシと撫でられる。
「司さん?」
「そんなに怯えるな。
なにも俺たちは事実確認だけで、
執事と主の関係とか怒るわけじゃない」

ホッと胸を撫で下ろすと色々な人から言葉が
とんでくる。
「お嬢様に彼氏とかどんな人だと思ったけど
陽なら安心ね」
「どこの馬の骨ともわからないような奴に大事なお
嬢様は渡せないからな」
「高校の子なら薫くんに頼んでいろいろ調査させようと思ってたの」
「ちなみに使用人全員身辺調査してるから」
「その内容を知ってるのは旦那様と
リーダーだけですけど」

(あの時身辺調査とか嘘で言ったのに
本当にされてたんだ〜)

「あの、どうして分かったんですか。
俺がそのお嬢様と」
「「雰囲気」」
恐る恐る聞くと一斉に返ってきた。

「そんなわかりやすかったですか」
「うん、なんか花咲いてた」
「お互いを見る目が違った」
(この人たちに隠し事できないな)

「滅多にないと思うけど、喧嘩したら問答無用で
お嬢様につく」
真顔で司さんに言われた時は怖かった。

「旦那様には話したの?」
「いえ」
「もう少ししたら話しときなよ」
「わかりました」

「ものすごい質問攻めにあった」
「お疲れ様」
司さんたちから解放された俺は部屋に戻る。
お嬢様はベット傍の椅子に座っていた。

「陽は学校の子と遊びに行ったりしないの?」
「まだそこまで親しい友達はできてないから。
中学の奴らも忙しいみたいでグループチャットは
あるだけって感じ。
今年のゴールデンウィークは渚と過ごせれば
いいかな」
さりげなく手を握る。

「学校の友達も大事にしないとダメだよ」
「分かってるよ」
照れ隠しなのかそっぽ向いて目線を外す渚。
そんな渚が可愛くて頭にキス。

「陽」
「ごめん、かわいくてつい」
咎めるような言い方に正直にいうと
「バカ」
と返ってきた。
(かわいいって言ったら怒られるからやめとこう)

ー次の日ー
「え、話す、お父様に?」
朝の身支度で髪を梳かしている
時に渚に伝えた。
「うん、ずっと隠してるとその間、 
旦那様は俺のことをただの執事として見ている。
執事として信用してる。
しばらくして彼氏でしたって言ったらその分
騙してたって思わせるんじゃないかって。
執事としての一線を越えたんだから。
上手く言えないけど俺はできるだけ早く伝えたいって思ってる」
髪留めをつける手が震える。

「お父様ね、来週に帰るって電話が昨夜あったんだ。陽のこと言わなかったの。1人で決めるものじゃないから。でも電話切った時、
言わなくていいのかなって迷った。
悪いことしてるわけじゃないのにモヤモヤして。
大丈夫だよ、陽。素直に言えば認めてくれるよ」
「そう、だね」
(認めてもらえるように頑張らないと)
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