私の可愛い(?)執事くん

一方、その頃
「どうしよう、渚が、渚が、」
「あれ、また電話かかってきたんだ
渚ちゃん、なんだって?」
「渚が彼氏紹介するって!」
「へー」
僕の叫びをあっさりと受け流したのは
幼馴染で秘書の海(かい)。

来週帰る連絡したら次の日またかかって
きた。
そしたら
「お父様に彼氏を紹介したい」
と。

「渚ちゃんも年頃でしょ。
彼氏の1人や2人いるって」
「いやだー!
まだ心の準備できてない!」
「じゃあ今からすればいいじゃん」
「そう簡単にポンとできるか!」

机にある亡き妻・千春(ちはる)の写真立てを手に
取る。
(千春、ついに渚に彼氏紹介したいって
言われちゃったよ)

千春は気が強い女性だった。
隣にいたら取り乱している僕を見て
「ドンと構えてりゃばいーんだよ」
て言って背中バシバシ叩いているだろう。

「私たちの子だろ?信じてやりな」
そう言って笑うんだろうな

「・・・千春」
司のなつかしむ声と一筋の涙は見ないふり。

「今の子は中学生、
もっと早ければ小学生で恋人ができる時代だよ」
「知りたくなかった」
「でも誰であれ紹介しようとしてくれるのはいい子
だと思うよ」
「だと思うよ、じゃなくていい子なんだよ」
「はいはい、動揺しても敵意剥き出しはやめなよ。
大人げない」
「分かってるよ」

屋敷に帰るまで落ち着けない夜が
続き週末、意を決して屋敷のドアを開けた。

執事一同のお出迎え。
「おかえりなさいませ、旦那様」
「おかえりなさい、お父様」
「あ、うん、ただいま」
陽に荷物を渡して自室へ。

「ありがとう陽、下がって」
「失礼します」
陽に下がってもらって椅子に腰掛けて向かい合わせ。

渚を信じたい気持ちと心配する気持ち、
威嚇したいが理性が働いていて、
ものすごく複雑な気持ち。

「それで渚。その、彼氏は、いつ、来るんだ」
「ちょっと待ってて」
平静を装うと席を立つ渚。
(もうこの屋敷に来ているのか)

入ってきたのは陽。
「どうした?その、急用じゃなければ後に
してくれないか」
「お父様、陽、なの。彼氏」
「渚さんとお付き合いさせていただいてます」
「・・・ん?」

時が止まった。思考が停止。
(彼氏。お付き合いって言ったよね。
陽が・・・陽!?
陽が彼氏!?)

「ごめん、ちょっと待って。整理させて。
その2人は付き合ってるんだよね、いつから?」
「陽が中学を卒業して、4月に入ってすぐ」
「そうか。・・・そっかぁ。とりあえず話してくれてありがとう」
ため息を吐いて思考を巡らせる。

「えっと、変なこと聞くね。
まず告白したのはどちらから?」
「私から」
「陽、気分を悪くしないで聞いて。
渚から伝えられたら、じゃないよね。
上の立場だから仕方なくじゃないよね」

「はい、俺は小さい頃から渚さんを慕っていました。主人、そして1人の女性として。
この気持ちに嘘偽りありません」
陽の真剣な眼差し。でも
「陽、君は彼氏であり執事だ。
その部分はしっかりと弁えられるか?」
「執事として、彼氏としての両方で渚さんを
支えます」

「僕は2人の意思を尊重したい。
でも渚は令嬢、陽は執事。
今はまだ良くてもこの先、反対するものは
必ず現れる。それでもいいのか?」
「私は陽がいい、陽じゃなきゃ嫌なの」
「周りになんと言われようとこの気持ちは
変わりません」
「その気持ちが聞ければ十分だよ」
(2人の人生。僕が深く干渉しすぎる問題じゃない。
しばらくは見守ろう)

< 66 / 73 >

この作品をシェア

pagetop