黒を以て白を制す

 「気にしない、気にしない」

 「…うん」

 「とにかく、はい。お茶」

 「え?」

 「いや、要るかなと思って」


 あまりにも滅入ってそうだったから、温かいお茶を淹れて伊那君のデスクの上に置いた。いつも家で飲んでるお茶と同じ温度、同じ緑茶。リラックス出来ればいいなーと思って淹れた。温度は温めだ。伊那君、わりと猫舌だし。


 「ありがとう…」


 すると、例の如くちょっと驚いた顔をされた。お礼を言うだけ言って、飲まずにお茶をじっと見てる。


 何だか懐かしい。初めて食事に行った日のことを思い出す。またちょうど欲しいと思ったタイミングで渡したんだろうか。いや、でも、今のは誰だって分かるはず。分かるくらいに伊那君は疲れてる。


 「飲まないの?」

 「飲むけど。久々にお茶を淹れて貰ったなと思って」

 「そう?伊那君の家に行ったときにいつも淹れてるでしょ」

 「あぁ、それでか。最近来てないしなー」


 そう言って伊那君は溜め息を吐きながら、デスクに肘をついてじっと考え込む。


 まぁ、伊那君が考え込むのも無理はない。私だって内心凄く寂しい。会社では毎日顔を合わせてるけど、仕事で会うのとプライベートで会うのとでは全然違う。会ってるけど、会っていないみたいな感じ。


 まさか会社でイチャつくわけにもいかないし、毎日我慢だ。だけど、そこは頑張りどころかなと思う。頑張ってる伊那君に余計な心労はかけたくない。


 「寂しいね」

 「桑子も寂しい?」

 「うん。でも、我慢する。仕事を頑張ってる伊那君が好きだから」

 「本当に?」

 「本当。それにほら、これからだってまだまだ沢山会えるんだから」

 「いつでも?」

 「そう。今は無理でもこの先いくらでも。だからあんまり考え込まないで」


 手まで組んでマジマジとお茶を見る伊那君の肩をポンっと叩く。どうにか元気になって欲しいけど、伊那君は考え込んだままだ。本当にどうしちゃったんだろう。まるで私みたいだ、珍しい。

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