身代わり同士、昼夜の政略結婚
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アステル王子のこちらに寄り添う姿勢、歩み寄りを主軸に置いた王国の紹介は、どれも穏やかで楽しかった。


歩く速さが非常にゆっくりなのは、不摂生なわたくしに合わせてくださったのかと思ったら、オルトロス王国では、高貴な身分の人ほどゆっくり歩くものなのですって。


儀式や行事は二時間を超えて当たり前、御幸があろうものなら一日単位で時間がかかるそうよ。


自分が住んでいる国であっても、オルトロス王国の明るさは、人々が隅々までよく見渡せる明るさなわけではない。

慣れているからと、よく見えないところもある場所を適当に歩いては、安全も威厳も目減りするということで、遅々とした歩みで進むのが伝統になったらしいわ。


「逆に合わせてもらっているくらいです」と遅さを心配するので、外出に不慣れでも疲れにくくてありがたいと答えておく。


銀の価値が高い国とあって、このお屋敷は、蝶番や差し金などの、本来鉄でつくらせるものが銀でできていた。

銀のシャンデリアまである。他国の王女を迎えるにふさわしく、贅を尽くした内装にしてもらっている。


何日かに分けた案内の途中、わたくしのベールが重なり、衣擦れがさらさらと鳴る度、川のせせらぎのようです、と彼は笑った。


オルトロス王国では、日除けのクリームや傘はいらない。風を送る係も、扇で仰ぐ係もいない。氷売りもいない。


では世話係は何をするのかというと、きらきら輝く装飾を施す係のようなのである。

月と星をいただく国では、顔も服も、キラッと光る素材を混ぜて、ときおり角度によってきらめくようにしておくのが通例なのだそう。


「お化粧をさせていただけたら、嬉しく思います」

「わたしは髪を結って差し上げたいです」


こんなみの虫を前に侍女のみなさんには本当によくしてもらっていて、いろいろと申し出てもらっているのだけれど、まだ厚いベールを一枚も減らせずにいる。


環境として、すごく穏やかな時間の流れ方をする屋敷だった。


周りは広々とした丘が並び、街並みは少しだけ離れている。


殿下のゆったりした足取りと同じく、屋敷内では人々の動き方が静かで、声も大きくない。


耳がよいのだと思うけれど、こちらの人たちはごくごく小さな声でぽつぽつと話す。殿下はおしゃべりな方。

あまり抑揚がない口調は感情が読み取りにくく、交渉に強いお国柄になった理由が分かる。
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