身代わり同士、昼夜の政略結婚
「失礼いたします。こちら、殿下からお手紙が届いております」

「ありがとう」


殿下は当然忙しいので、毎日話をするのは難しい。お仕事が続くときや夜が遅いときなどは、手紙を書いて世話係に預けていく。


わたくしの視力でも読みやすいように、色が特別に濃いインクで書いてくれる。


内容は、移動中に見かけた植物や生き物の紹介、自分が出る王国の伝統的な行事の説明などで、あくまで王国に関連するささやかなものが多かった。


初めに灯してもらってから、変わらずわたくしの部屋には蝋燭がたくさんある。


こちらには、たくさんの燭台の火を絶やさないよう、見回る役がいるの。交代制で、一日中見て回るのよ。


髪色が暗いほど邪魔をしないということで、身長と髪と目の色で選ばれるらしくって、しずしず歩かれると、いただいたお手紙や本を読んでいるときの見回りには、ほとんど気がつけない。


一番驚いたのは、オルトロス王国でも花が咲くということ。


光合成をやめて、日の光がなくても育つよう進化し、菌類から栄養を分けてもらって咲く、オルトロス王国唯一の、特有の花。


「わたくしは勉強不足で、存じ上げませんでした」

「いえ、ご存知なくてもおかしなことではありません。なにぶん足がはやい儚い花で、他国の催し物に出席する際につけていくのは難しいものですから」


自国内でも、摘み取ってしまってはすぐ萎れるので、鉢植えのまま飾る、珍しいお花なんだとか。


花といえばこの花以外にないので、「花」がそのまま名前だという。薄桃の多弁花で、鈴のような壺型が下向きに咲く。


生花は大変な高級品で、貴族のお屋敷には大抵植えられている。もちろんこのお屋敷にもあって、見せていただいたわ。
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