初な彼女と絆される僕
“坊ちゃまと中畠さん、付き合いだしたらしい”
そんな噂が、会社にながれるようになった。


課長から御曹司に乗り換えた、と――――――



「―――――中畠ー、帰ろうぜ!」
「うん」

周りがそう思うのも、当たり前のことだ。
永輔は、ほぼ毎日李依にくっついていたからだ。

そんな姿を、勇剛はただ切なく見つめていた。

糸岩が、嘘を言ってるのは明白。
でも糸岩と交際し、関係を持っていたのも真実。

本気で糸岩を好きでもないのに、居心地の良さだけで一緒にいたのも事実。

例え嘘をでも、李依からすればきっと…軽蔑すべき人間なのだろう。

“これ以上嫌われたら……”

そう思うと、声をかけることすら出来ない。

そして声をかけることが出来ない最大の理由がある。


永輔と李依が交際しているという事実だ。


“僕から坊ちゃまに乗り換えた”

李依がそんな人間じゃないことは、わかっている。
しかし矛盾していて、どこかで“やっぱ、そんな女なのかもしれない”と思っていた。



「―――――中畠、今日は一緒帰れない。
わりぃな…
これが、終わらなくてさぁ…」

「あ、じゃあ…お手伝いするよ?」

「いや、良いって!
ほら、気をつけて帰れよ?」

「うん、お疲れ様!」

気づけば……夏は終わり、肌寒い季節になっていた。
永輔が残業していると、ドアが開き……

「あれ?坊ちゃま?」

「あ、課長?」
勇剛が入ってきた。

「どうしたんすか?」 

「明日の会議の資料を、もう一度確認しようと思ってね」

「へぇー、大変ですね、課長は」

「次期社長の君には負けるよ?」

「うーん…でも、そんなすぐのことじゃないし。
遠い未来ですよ?」 

「……………李依…あ、中畠さんも将来安心だろうな…(笑)」
自嘲気味に笑い、思わず口から出た勇剛。

「…………は?」
永輔が、鋭い視線で勇剛を見た。

「何?」

「まさか、課長。
ただの噂、信じてないですよね?」

「え?」

「……………は?マジかよ……!
課長って、そこまで愚かな奴だったんですか……!?」

「は?」

「本気で、俺と中畠が付き合ってるって思ってるんすか!?」

「え?」

「“あの”中畠が、課長から俺に乗り換えたって本気で思ってんのかって聞いてんだよ!!?」

「………」


「ふざけるな!!!!
中畠がどんな思いで毎日を過ごしてるか、なんでわかんねぇんだよ!!?」

永輔が勇剛の胸ぐらを掴み、壁に押し付けていた。
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