お針子は王子の夢を見る

***

 一年後。
 ルシーとエルヴェは結婚した。
 式は盛大に行われ、二人の衣装を縫ったマノン・クロワゾンの工房は名を上げた。
 参列したルシーの母は、娘の晴れ姿に(すこ)やかな涙をこぼした。彼女の身につけた布製の薔薇は工房に復帰した彼女が作ったもので、華やかにルシーを彩っていた。



 式を終えたルシーは、披露宴が始まる前のひとときをエルヴェと過ごした。
 暮暮(くれぐれ)のバルコニーに立ち、ルシーはため息をついた。
「夕日がきれい」
「そうだね」
 後ろからルシーを抱きしめ、エルヴェは一日の最後の光を見つめる。

 天高くに紺碧の夜が迫り、大地の(きわ)は赤く輝いていた。
「私、幸せです」
「俺もだ。君が心をこめて作った服が、本当に幸せを運んできてくれた。そう思っているよ」
 ルシーはうつむいた。頬が赤いのは夕映えのせいばかりではない。

 幸せにしてあげてね。
 いつもそう祈って服を送り出してきた。
 そうして、その服を着た人と結婚した。
 なんという巡り合わせなのだろう。

「こちらを見て」
 言われて、彼に向き直る。

「今度は俺が君を幸せにする」
「恐れ多いお言葉です」
 ルシーの改まった言葉に、エルヴェはくすっと笑った。

 残照に、二人の影が重なった。
 幸せな夜の帳が、ゆっくり降りようとしていた。



* 終 *
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