【シナリオ】カラダ(見た目)から始まる恋はアリですか!?
第六話 流せなかった言葉
〇サクラの部屋(夜)

  サクラがベッドの上にあおむけになり、大の字になっている。

サクラ「はぁ~~~~~っ!」

  サクラがごろんと寝返りを打ち、横向きになる。

サクラ・モノローグ『画面の向こうで並んで笑ってるあの二人が──』

〇会見会場(昼) ※回想

  モトキとネネが隣同士で座って微笑んでいる。二人はカメラのフラッシュを大量に浴びている。

サクラ・モノローグ『──頭から離れない』

〇サクラの部屋(夜) ※回想終了

  横向きにベッドに横たわるサクラ。泣きそうな顔をしている。

サクラ・モノローグ『私とモトキくんなんかより何倍もお似合いだと思った』
サクラ(あのお嬢様の言った『モトキ』は、やっぱりモトキくんのことで)
サクラ(あの部屋にあったあの白いジャージは、モトキくんのもので)
サクラ(つまりあの部屋に泊まっているのは、あのお嬢様とモトキくんってことで)

  サクラはぎゅっと目を閉じる。

サクラ(つまり二人は──)

〇ペントハウススイート・ベッドルーム(夜) ※想像

  ベッドの足元にモトキとネネが座っている。
  二人は甘い空気を漂わせながらキスをし、ベッドに倒れこんでゆく。

〇サクラの部屋(夜) ※想像終了

サクラ「って、何考えてるんだろうね、私」

  サクラは深いため息をつく。もう一度、あおむけになるよう寝返りを打った。

サクラ・モノローグ『これでいいと思う』
サクラ・モノローグ『若くてセレブなモトキくんには、若くてセレブなあのお嬢様がぴったりだ』
サクラ(婚約者がいるなら私になんて構わないでほしかった)
サクラ(けど──)

〇マンションの廊下(夜) ※回想

  部屋の扉の前で、スーツ姿のモトキが真剣な顔をしている。

モトキ「円居さんへの気持ちは変わりませんが、ご迷惑を鑑みて今はこの気持ちは胸の奥に仕舞うことにしました」

〇サクラの部屋(夜) ※回想終了

  サクラはベッドにあおむけのまま。

サクラ・モノローグ『あれはこうなるって分かってた、彼なりの誠意だったんだと思う』
サクラ(でも……私だって好きだった)

  サクラの目尻から、涙が一筋こぼれる。

サクラ・モノローグ『全部全部、逃げ腰だった私のせい』
サクラ・モノローグ『私が悪い。なのに──』

  サクラの目から、涙が溢れ出す。涙が止まらず、サクラは顔をぐしゃぐしゃにする。

サクラ・モノローグ『胸からせり上がってくるモヤモヤが涙になって溢れてくる』

サクラ(綺麗さっぱり流したい)
サクラ(全部、無くなっちゃえばいいよ。こんな気持ち)
サクラ「そうだ、銭湯──」

  サクラははっとした顔をして、起き上がる。

サクラ(モトキくんに会うかもってなかなか行けてなかったけど、今ならモトキくんはホテルだし)
サクラ(おばあちゃんも元気になったって言ってたし……)

  サクラは涙をぬぐい、立ち上がる。

サクラ「よしっ!」

  サクラが銭湯に行く準備を持って、部屋を出て行く。

〇銭湯の前の道(夜)

  サクラが一人で銭湯へ向かい歩いている。

サクラ・モノローグ『何もかも、流れますように』
サクラ・モノローグ『綺麗サッパリ、流れますように』

〇銭湯の入り口(夜)

  番台におばあちゃんが立っている。サクラが銭湯に入っていくる。

おばあちゃん「あら、サクラちゃん! 久しぶりだねぇ、会えて良かった」
おばあちゃん「うちの銭湯で怪我させちゃったんだって聞いて、ずっと謝りたくてねぇ」
サクラ「おばあちゃん! 私のことなんていいの、もうすっかり治ったから!」
サクラ「お菓子もありがとう、美味しかった!」
サクラ「おばあちゃんは怪我の具合どう? 大丈夫なの?」
おばあちゃん「わしはすっかり元気だよ! こうして番台にも立てるからねぇ」
サクラ「良かった! おばあちゃん、女一人ね!」

  サクラが200円をおばあちゃんに手渡す。

おばあちゃん「ありがとうね、サクラちゃん」
おばあちゃん「女湯はもう一人もいないから、ゆっくり入っておいで」

  サクラはおばあちゃんに笑みを向け、脱衣場へと入っていく。

〇銭湯・女湯の中(夜)

  サクラが銭湯の浴槽に浸かっている。

サクラ「はぁ、久しぶりだなぁ」

  浴場の中には、湯煙が溢れている。

サクラ・モノローグ『流れていく』
サクラ・モノローグ『お湯の中に、私の想いも、悲しみも、全部全部、きれいに流れて』

  銭湯のシャワー台の間の通路も湯煙で満たされている。

サクラ・モノローグ『この大きなお風呂を出る頃には、すっかり新しい私に──』

  シャワー台の辺りを眺めるサクラは、突然泣き出してしまう。

サクラ「うう……ふぇ……」
サクラ・モノローグ『──なれると、思ってたのに』
サクラ(どうして銭湯に来ちゃったんだろう)

〇銭湯・女湯の中(夜) ※回想

  シャワー台の間でサクラが倒れている。モトキが驚いてサクラを見下ろしている。

サクラ・モノローグ『初めて彼と出会ったこの場所では──』
モトキ「大丈夫っすか!?」
サクラ・モノローグ『嫌というほど、彼のことを思い出してしまう』

〇銭湯・女湯の中(夜) ※回想終了

  サクラが涙を堪えられず、浴槽の中一人で泣いている。

サクラ・モノローグ『この気持ちが流れないのなら──』
サクラ・モノローグ『彼の言葉を、流せないのなら──』

  湯煙が天井まで昇る。

サクラ・モノローグ『──この湯煙になって、消えてしまいたい』

  サクラ、涙を腕で拭う。

サクラ(バカだなぁ、私)
サクラ(もうあがろう。これ以上泣いたら止まらなくなりそうだもん)

  サクラが湯船から上がる。

〇銭湯の入り口(夜)

  着替えを終えたサクラが、帰り支度を持って番台へ向かっている。
  番台には、おばあちゃんが立っている。

サクラ「おばあちゃん、出たよ。遅くまでありが──」

  番台の向こう、男湯の方に白いジャージを着たモトキの姿が見え、サクラは立ち止まってしまう。
  モトキがおばあちゃんへ声を掛けている。

モトキ「男湯、忘れ物チェック終わった。このまま掃除に──」

  モトキもサクラに気が付く。二人はしばし見つめ合う。

おばあちゃん「おや?」

  モトキの視線を辿ったおばあちゃんがサクラに気づき、サクラに笑みを向ける。

おばあちゃん「サクラちゃん、出たのかい。ゆっくりできた──」

  サクラは慌てて銭湯の戸に手をかける。

サクラ「おばあちゃん、また来るね!」

  ガラガラとその戸を開け、慌てるように銭湯を出て行く。
  モトキがサクラの背中に手を伸ばす。

モトキ「円居さん!」

  モトキはサクラを追いかけ銭湯の外へ走って行く。

〇銭湯の前の道(夜)

  逃げるサクラを、モトキが追いかけている。

モトキ「待って、円居さん!」

  逃げるサクラの顔には、涙が浮かんでいる。

サクラ(無理。待てない。こんな顔──)
モトキ「待ってよ、円居さん!」
サクラ・モノローグ『──彼に見られたくない』
サクラ(追いかけないでよ、バカ!)

〇住宅街の道(夜)

  サクラは逃げ、モトキが追いかけている。

モトキ「待てよ、サクラっ!」

  追いついたモトキが、サクラの腕をバシっと握る。
  サクラは立ち止まる。

モトキ「はぁ、はぁ……、やっと……追いついた……」
モトキ「どんだけ足速えんだよ……」

  サクラは泣き顔のまま勢いよく振り返る。

サクラ「離してよ!」

  モトキは真剣な顔で、握った手に力を込める。

モトキ「嫌だ」
サクラ「何で!? 私のことフッたくせに!」
サクラ「モトキくんには婚約者だっているのに!」

  モトキの顔がはっと見開かれる。
  サクラの顔は愁いを帯びながら、斜め下に視線を向ける。

サクラ「お似合いだと思う」
サクラ「こんな年上の身体も汚いオバサンよりも、全然」
サクラ・モノローグ『違う、こんなの八つ当たりだ』

  サクラの目から、涙が溢れ一筋、頬を伝う。

サクラ・モノローグ『ごめんね、モトキくん』
サクラ・モノローグ『私は、こうやって理由をつけて逃げて、これ以上傷付かないようにって――』
サクラ・モノローグ『逃げることしか、できないんだよ』

サクラ「だから……」

  モトキと見つめ合うサクラ。
  モトキの手の力が抜け、サクラの腕がするりと抜け落ちる。
  モトキの顔が、悲し気に歪む。

モトキ「……ごめんなさい」

サクラ・モノローグ『それはつまり、〝別れ〟ということ』

  サクラは泣き顔のまま、無理やりにニコっと微笑む。

サクラ(バイバイ、モトキくん)

  サクラはモトキに背を向け、住宅街を静かに歩いてく。
  モトキは顔を歪ませたまま、その場に立ち尽くしている。

〇サクラの部屋(夜・明かりがついていない)

  サクラが力なく部屋に入っていくる。
  そのまま、その場にへなへなとへたり込んでしまう。

サクラ(逃げて、捕まって、また背を向けて──)
サクラ(恋なんて、苦しいだけ。悲しいだけ、傷付くだけだよね)

  サクラは窓の外を見上げる。窓の外は、夜空に星が浮かんでいる。

サクラ・モノローグ『ねえ、お星さま──』
サクラ・モノローグ『どうしたら、彼を忘れられる?』

〇住宅街の道(夜)

  モトキが一人、顔を歪ませたまま立ち止まっている。サクラが去っていた方を、じっと見ている。

モトキ・モノローグ『掴んでいた手を、離してしまった』

〇住宅街の道(夜)※回想

  モトキが泣き顔のサクラに向かって、顔を歪ませている。

モトキ「……ごめんなさい」

  サクラは泣き顔のまま、無理やりにニコっと微笑む。

モトキ(婚約者のこと、知ってたのか)

  サクラがモトキに背を向け、住宅街を静かに歩いてく。

モトキ・モノローグ『僕に背を向け、夜の闇に消えていく彼女を──』
モトキ(泣いてたよな、円居さん)

  モトキは顔を歪ませたまま、その場に立ち尽くしている。

モトキ『──それ以上、追いかけることはできなかった』

  モトキはうつむき、悔しそうに両こぶしをぐっと握り締める。

モトキ(何もかも、中途半端なままにした俺のせいだ)

〇銭湯の入り口(夜)

  おばあちゃんが番台に立ち、不安そうな顔をしている。
  入り口の戸がガラガラと開き、肩を落としたモトキが入ってくる。

おばあちゃん「おかえり、モトキ」
モトキ「うん……」
モトキ「ばーちゃん、俺、男湯掃除終わったら女湯も掃除してくわ」
モトキ「もう遅いからばーちゃんは先に帰って」

  言いながら、顔を上げずにおばあちゃんの前を通り過ぎるモトキ。
  おばあちゃんは何かを察し、笑顔を浮かべる。

おばあちゃん「そげか、じゃあお願いしようかねぇ」
おばあちゃん「あんまり遅くならんと、無理せんよ」

  モトキの丸くなった後ろ姿が、男湯の中に入っていく。

おばあちゃん「のんびりゆっくりでもいいがや。終わらんかったら、明日やればいいからな」
モトキ「うん」

〇ペントハウススイート・ダイニング(夜)

  ネネが窓際のソファに座り、スマホを弄っている。
  がちゃり、と扉が開く音がして、ネネは入り口の扉の方を向く。
  扉からは、肩を落としたモトキが入ってくる。

ネネ「あ、おかえりモトキ!」

  モトキがため息を零し、眉間にしわをよせ、部屋内に入ってくる。

モトキ「お前、まだいたのか」
ネネ「別にいいでしょ! こんなハイグレードなお部屋なかなか泊まれないし――」
ネネ「夜景もキレイだし! ほら、東京の街が一望できる~♪」

  ネネが窓の外を見下ろし、きゃっきゃと騒ぐ。モトキは面倒くさそうにネネの向かいにあるソファに座る。

モトキ「はぁ……」
モトキ「そんなん、彼氏に連れてきてもらえよ」
モトキ「俺なんかと過ごすよりそっちのほうが全然いい」

  ネネは顔を寂しそうに歪ませ、うつむく。

ネネ「まあ、そりゃそうなんだけど──」

  ネネは窓の外を見下ろす。

ネネ「ねえ、モトキ」
ネネ「私たち、本当に結婚しなくて良くなるかな」

  モトキがはっとして、無理やり笑顔を浮かべる。立ち上がり、ネネの後ろへ。そのままネネの肩を、ぽんと叩く。

モトキ「心配すんなよ、俺が何とかするって言ったろ」
モトキ「結婚式には呼べよなー。あ、式の前日は食いすぎんなよ」
モトキ「ドレス入んなくなったら笑ってやる」

  ケラケラ笑うモトキ。ネネは顔だけ振り返る。頬を膨らませながらも頬を赤らめる。

ネネ「もー、モトキ! 気が早すぎっ!」

  モトキの目が細められる。

モトキ「だから、心配すんな」

  ネネはモトキの顔を直視できず、目を逸らす。

ネネ「……ありがと」

  しかし、ネネはすぐにいたずらな笑みを浮かべモトキを見上げる。

ネネ「モトキの結婚式も呼んでよね!」
ネネ「タキシード姿のままお風呂掃除してそうだけど」
モトキ「んだよ、それ」
ネネ「あー、でもモトキの場合はその前にお相手探さなきゃか!」

  ケラケラ笑うネネ。モトキは急に顔をしかめる。その頬は、ほんのり赤らんでいる。

モトキ「それは心配いらねーよ。好きな人はちゃんといる」
ネネ「え、嘘っ!? 私知らないっ!」
モトキ「言ってねーもん」

  モトキが愛しい人を想うように、優しい笑みを浮かべる。
  ネネは立ち上がり、追求するようにモトキの顔を覗く。

ネネ「誰だれ? 私の知ってる人⁉」
ネネ「もう付き合ってるの? いい感じなの~?」

  モトキは目をぱちくりさせ、呆れたようにネネの肩をそっと押す。

モトキ「お前面倒くせえ」
ネネ「いいじゃん教えなさいよ! 減るもんじゃないし~」
モトキ「あーもう寝ろ寝ろ」

  モトキは言いながら、ネネの肩を掴みくるりと向きを変えさせる。
  そのまま寝室のある方へ、ネネの背中を押して誘導する。

モトキ「俺またこっちで寝るから寝室行け、早くっ!」
ネネ「わ、押さないでよもーっ!」

  ネネは怒りながら抵抗するが、そのまま寝室の扉の中に押し込まれてしまう。
  モトキはガチャリと、寝室の扉を閉じた。

  部屋が静かになると、モトキはドサっとその身をソファに沈める。

モトキ「ふう……」

  一息つくように目を閉じるモトキ。
  しかし、すぐに目を開け天井を見つめる。

モトキ(女の恋バナってやつか? 面倒くせえ……けど──)

  モトキ、そのままソファに身体ごと倒れ込む。

モトキ「俺も大概、面倒くせえ男だよなぁ」

  ソファの上、組んだ両手を頭の下に置いたモトキ。

モトキ(もっと格好良く、大人の男性になって、)
モトキ(諸々のこと、全部片付けて、)

  モトキが顔だけ横に向ける。

モトキ(それからだったのに、俺は何を先走って──)

  モトキが顔を向けた方には窓がある。
  窓のからは、こうこうと輝く、東京の夜景が見える。

モトキ・モノローグ『俺はまだ、告白する資格すら無かったのに』
モトキ(円居さん……)
モトキ(待っててくれるかな、俺のこと)
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