【シナリオ】カラダ(見た目)から始まる恋はアリですか!?
第六話 流せなかった言葉
〇サクラの部屋(夜)
サクラがベッドの上にあおむけになり、大の字になっている。
サクラ「はぁ~~~~~っ!」
サクラがごろんと寝返りを打ち、横向きになる。
サクラ・モノローグ『画面の向こうで並んで笑ってるあの二人が──』
〇会見会場(昼) ※回想
モトキとネネが隣同士で座って微笑んでいる。二人はカメラのフラッシュを大量に浴びている。
サクラ・モノローグ『──頭から離れない』
〇サクラの部屋(夜) ※回想終了
横向きにベッドに横たわるサクラ。泣きそうな顔をしている。
サクラ・モノローグ『私とモトキくんなんかより何倍もお似合いだと思った』
サクラ(あのお嬢様の言った『モトキ』は、やっぱりモトキくんのことで)
サクラ(あの部屋にあったあの白いジャージは、モトキくんのもので)
サクラ(つまりあの部屋に泊まっているのは、あのお嬢様とモトキくんってことで)
サクラはぎゅっと目を閉じる。
サクラ(つまり二人は──)
〇ペントハウススイート・ベッドルーム(夜) ※想像
ベッドの足元にモトキとネネが座っている。
二人は甘い空気を漂わせながらキスをし、ベッドに倒れこんでゆく。
〇サクラの部屋(夜) ※想像終了
サクラ「って、何考えてるんだろうね、私」
サクラは深いため息をつく。もう一度、あおむけになるよう寝返りを打った。
サクラ・モノローグ『これでいいと思う』
サクラ・モノローグ『若くてセレブなモトキくんには、若くてセレブなあのお嬢様がぴったりだ』
サクラ(婚約者がいるなら私になんて構わないでほしかった)
サクラ(けど──)
〇マンションの廊下(夜) ※回想
部屋の扉の前で、スーツ姿のモトキが真剣な顔をしている。
モトキ「円居さんへの気持ちは変わりませんが、ご迷惑を鑑みて今はこの気持ちは胸の奥に仕舞うことにしました」
〇サクラの部屋(夜) ※回想終了
サクラはベッドにあおむけのまま。
サクラ・モノローグ『あれはこうなるって分かってた、彼なりの誠意だったんだと思う』
サクラ(でも……私だって好きだった)
サクラの目尻から、涙が一筋こぼれる。
サクラ・モノローグ『全部全部、逃げ腰だった私のせい』
サクラ・モノローグ『私が悪い。なのに──』
サクラの目から、涙が溢れ出す。涙が止まらず、サクラは顔をぐしゃぐしゃにする。
サクラ・モノローグ『胸からせり上がってくるモヤモヤが涙になって溢れてくる』
サクラ(綺麗さっぱり流したい)
サクラ(全部、無くなっちゃえばいいよ。こんな気持ち)
サクラ「そうだ、銭湯──」
サクラははっとした顔をして、起き上がる。
サクラ(モトキくんに会うかもってなかなか行けてなかったけど、今ならモトキくんはホテルだし)
サクラ(おばあちゃんも元気になったって言ってたし……)
サクラは涙をぬぐい、立ち上がる。
サクラ「よしっ!」
サクラが銭湯に行く準備を持って、部屋を出て行く。
〇銭湯の前の道(夜)
サクラが一人で銭湯へ向かい歩いている。
サクラ・モノローグ『何もかも、流れますように』
サクラ・モノローグ『綺麗サッパリ、流れますように』
〇銭湯の入り口(夜)
番台におばあちゃんが立っている。サクラが銭湯に入っていくる。
おばあちゃん「あら、サクラちゃん! 久しぶりだねぇ、会えて良かった」
おばあちゃん「うちの銭湯で怪我させちゃったんだって聞いて、ずっと謝りたくてねぇ」
サクラ「おばあちゃん! 私のことなんていいの、もうすっかり治ったから!」
サクラ「お菓子もありがとう、美味しかった!」
サクラ「おばあちゃんは怪我の具合どう? 大丈夫なの?」
おばあちゃん「わしはすっかり元気だよ! こうして番台にも立てるからねぇ」
サクラ「良かった! おばあちゃん、女一人ね!」
サクラが200円をおばあちゃんに手渡す。
おばあちゃん「ありがとうね、サクラちゃん」
おばあちゃん「女湯はもう一人もいないから、ゆっくり入っておいで」
サクラはおばあちゃんに笑みを向け、脱衣場へと入っていく。
〇銭湯・女湯の中(夜)
サクラが銭湯の浴槽に浸かっている。
サクラ「はぁ、久しぶりだなぁ」
浴場の中には、湯煙が溢れている。
サクラ・モノローグ『流れていく』
サクラ・モノローグ『お湯の中に、私の想いも、悲しみも、全部全部、きれいに流れて』
銭湯のシャワー台の間の通路も湯煙で満たされている。
サクラ・モノローグ『この大きなお風呂を出る頃には、すっかり新しい私に──』
シャワー台の辺りを眺めるサクラは、突然泣き出してしまう。
サクラ「うう……ふぇ……」
サクラ・モノローグ『──なれると、思ってたのに』
サクラ(どうして銭湯に来ちゃったんだろう)
〇銭湯・女湯の中(夜) ※回想
シャワー台の間でサクラが倒れている。モトキが驚いてサクラを見下ろしている。
サクラ・モノローグ『初めて彼と出会ったこの場所では──』
モトキ「大丈夫っすか!?」
サクラ・モノローグ『嫌というほど、彼のことを思い出してしまう』
〇銭湯・女湯の中(夜) ※回想終了
サクラが涙を堪えられず、浴槽の中一人で泣いている。
サクラ・モノローグ『この気持ちが流れないのなら──』
サクラ・モノローグ『彼の言葉を、流せないのなら──』
湯煙が天井まで昇る。
サクラ・モノローグ『──この湯煙になって、消えてしまいたい』
サクラ、涙を腕で拭う。
サクラ(バカだなぁ、私)
サクラ(もうあがろう。これ以上泣いたら止まらなくなりそうだもん)
サクラが湯船から上がる。
〇銭湯の入り口(夜)
着替えを終えたサクラが、帰り支度を持って番台へ向かっている。
番台には、おばあちゃんが立っている。
サクラ「おばあちゃん、出たよ。遅くまでありが──」
番台の向こう、男湯の方に白いジャージを着たモトキの姿が見え、サクラは立ち止まってしまう。
モトキがおばあちゃんへ声を掛けている。
モトキ「男湯、忘れ物チェック終わった。このまま掃除に──」
モトキもサクラに気が付く。二人はしばし見つめ合う。
おばあちゃん「おや?」
モトキの視線を辿ったおばあちゃんがサクラに気づき、サクラに笑みを向ける。
おばあちゃん「サクラちゃん、出たのかい。ゆっくりできた──」
サクラは慌てて銭湯の戸に手をかける。
サクラ「おばあちゃん、また来るね!」
ガラガラとその戸を開け、慌てるように銭湯を出て行く。
モトキがサクラの背中に手を伸ばす。
モトキ「円居さん!」
モトキはサクラを追いかけ銭湯の外へ走って行く。
〇銭湯の前の道(夜)
逃げるサクラを、モトキが追いかけている。
モトキ「待って、円居さん!」
逃げるサクラの顔には、涙が浮かんでいる。
サクラ(無理。待てない。こんな顔──)
モトキ「待ってよ、円居さん!」
サクラ・モノローグ『──彼に見られたくない』
サクラ(追いかけないでよ、バカ!)
〇住宅街の道(夜)
サクラは逃げ、モトキが追いかけている。
モトキ「待てよ、サクラっ!」
追いついたモトキが、サクラの腕をバシっと握る。
サクラは立ち止まる。
モトキ「はぁ、はぁ……、やっと……追いついた……」
モトキ「どんだけ足速えんだよ……」
サクラは泣き顔のまま勢いよく振り返る。
サクラ「離してよ!」
モトキは真剣な顔で、握った手に力を込める。
モトキ「嫌だ」
サクラ「何で!? 私のことフッたくせに!」
サクラ「モトキくんには婚約者だっているのに!」
モトキの顔がはっと見開かれる。
サクラの顔は愁いを帯びながら、斜め下に視線を向ける。
サクラ「お似合いだと思う」
サクラ「こんな年上の身体も汚いオバサンよりも、全然」
サクラ・モノローグ『違う、こんなの八つ当たりだ』
サクラの目から、涙が溢れ一筋、頬を伝う。
サクラ・モノローグ『ごめんね、モトキくん』
サクラ・モノローグ『私は、こうやって理由をつけて逃げて、これ以上傷付かないようにって――』
サクラ・モノローグ『逃げることしか、できないんだよ』
サクラ「だから……」
モトキと見つめ合うサクラ。
モトキの手の力が抜け、サクラの腕がするりと抜け落ちる。
モトキの顔が、悲し気に歪む。
モトキ「……ごめんなさい」
サクラ・モノローグ『それはつまり、〝別れ〟ということ』
サクラは泣き顔のまま、無理やりにニコっと微笑む。
サクラ(バイバイ、モトキくん)
サクラはモトキに背を向け、住宅街を静かに歩いてく。
モトキは顔を歪ませたまま、その場に立ち尽くしている。
〇サクラの部屋(夜・明かりがついていない)
サクラが力なく部屋に入っていくる。
そのまま、その場にへなへなとへたり込んでしまう。
サクラ(逃げて、捕まって、また背を向けて──)
サクラ(恋なんて、苦しいだけ。悲しいだけ、傷付くだけだよね)
サクラは窓の外を見上げる。窓の外は、夜空に星が浮かんでいる。
サクラ・モノローグ『ねえ、お星さま──』
サクラ・モノローグ『どうしたら、彼を忘れられる?』
〇住宅街の道(夜)
モトキが一人、顔を歪ませたまま立ち止まっている。サクラが去っていた方を、じっと見ている。
モトキ・モノローグ『掴んでいた手を、離してしまった』
〇住宅街の道(夜)※回想
モトキが泣き顔のサクラに向かって、顔を歪ませている。
モトキ「……ごめんなさい」
サクラは泣き顔のまま、無理やりにニコっと微笑む。
モトキ(婚約者のこと、知ってたのか)
サクラがモトキに背を向け、住宅街を静かに歩いてく。
モトキ・モノローグ『僕に背を向け、夜の闇に消えていく彼女を──』
モトキ(泣いてたよな、円居さん)
モトキは顔を歪ませたまま、その場に立ち尽くしている。
モトキ『──それ以上、追いかけることはできなかった』
モトキはうつむき、悔しそうに両こぶしをぐっと握り締める。
モトキ(何もかも、中途半端なままにした俺のせいだ)
〇銭湯の入り口(夜)
おばあちゃんが番台に立ち、不安そうな顔をしている。
入り口の戸がガラガラと開き、肩を落としたモトキが入ってくる。
おばあちゃん「おかえり、モトキ」
モトキ「うん……」
モトキ「ばーちゃん、俺、男湯掃除終わったら女湯も掃除してくわ」
モトキ「もう遅いからばーちゃんは先に帰って」
言いながら、顔を上げずにおばあちゃんの前を通り過ぎるモトキ。
おばあちゃんは何かを察し、笑顔を浮かべる。
おばあちゃん「そげか、じゃあお願いしようかねぇ」
おばあちゃん「あんまり遅くならんと、無理せんよ」
モトキの丸くなった後ろ姿が、男湯の中に入っていく。
おばあちゃん「のんびりゆっくりでもいいがや。終わらんかったら、明日やればいいからな」
モトキ「うん」
〇ペントハウススイート・ダイニング(夜)
ネネが窓際のソファに座り、スマホを弄っている。
がちゃり、と扉が開く音がして、ネネは入り口の扉の方を向く。
扉からは、肩を落としたモトキが入ってくる。
ネネ「あ、おかえりモトキ!」
モトキがため息を零し、眉間にしわをよせ、部屋内に入ってくる。
モトキ「お前、まだいたのか」
ネネ「別にいいでしょ! こんなハイグレードなお部屋なかなか泊まれないし――」
ネネ「夜景もキレイだし! ほら、東京の街が一望できる~♪」
ネネが窓の外を見下ろし、きゃっきゃと騒ぐ。モトキは面倒くさそうにネネの向かいにあるソファに座る。
モトキ「はぁ……」
モトキ「そんなん、彼氏に連れてきてもらえよ」
モトキ「俺なんかと過ごすよりそっちのほうが全然いい」
ネネは顔を寂しそうに歪ませ、うつむく。
ネネ「まあ、そりゃそうなんだけど──」
ネネは窓の外を見下ろす。
ネネ「ねえ、モトキ」
ネネ「私たち、本当に結婚しなくて良くなるかな」
モトキがはっとして、無理やり笑顔を浮かべる。立ち上がり、ネネの後ろへ。そのままネネの肩を、ぽんと叩く。
モトキ「心配すんなよ、俺が何とかするって言ったろ」
モトキ「結婚式には呼べよなー。あ、式の前日は食いすぎんなよ」
モトキ「ドレス入んなくなったら笑ってやる」
ケラケラ笑うモトキ。ネネは顔だけ振り返る。頬を膨らませながらも頬を赤らめる。
ネネ「もー、モトキ! 気が早すぎっ!」
モトキの目が細められる。
モトキ「だから、心配すんな」
ネネはモトキの顔を直視できず、目を逸らす。
ネネ「……ありがと」
しかし、ネネはすぐにいたずらな笑みを浮かべモトキを見上げる。
ネネ「モトキの結婚式も呼んでよね!」
ネネ「タキシード姿のままお風呂掃除してそうだけど」
モトキ「んだよ、それ」
ネネ「あー、でもモトキの場合はその前にお相手探さなきゃか!」
ケラケラ笑うネネ。モトキは急に顔をしかめる。その頬は、ほんのり赤らんでいる。
モトキ「それは心配いらねーよ。好きな人はちゃんといる」
ネネ「え、嘘っ!? 私知らないっ!」
モトキ「言ってねーもん」
モトキが愛しい人を想うように、優しい笑みを浮かべる。
ネネは立ち上がり、追求するようにモトキの顔を覗く。
ネネ「誰だれ? 私の知ってる人⁉」
ネネ「もう付き合ってるの? いい感じなの~?」
モトキは目をぱちくりさせ、呆れたようにネネの肩をそっと押す。
モトキ「お前面倒くせえ」
ネネ「いいじゃん教えなさいよ! 減るもんじゃないし~」
モトキ「あーもう寝ろ寝ろ」
モトキは言いながら、ネネの肩を掴みくるりと向きを変えさせる。
そのまま寝室のある方へ、ネネの背中を押して誘導する。
モトキ「俺またこっちで寝るから寝室行け、早くっ!」
ネネ「わ、押さないでよもーっ!」
ネネは怒りながら抵抗するが、そのまま寝室の扉の中に押し込まれてしまう。
モトキはガチャリと、寝室の扉を閉じた。
部屋が静かになると、モトキはドサっとその身をソファに沈める。
モトキ「ふう……」
一息つくように目を閉じるモトキ。
しかし、すぐに目を開け天井を見つめる。
モトキ(女の恋バナってやつか? 面倒くせえ……けど──)
モトキ、そのままソファに身体ごと倒れ込む。
モトキ「俺も大概、面倒くせえ男だよなぁ」
ソファの上、組んだ両手を頭の下に置いたモトキ。
モトキ(もっと格好良く、大人の男性になって、)
モトキ(諸々のこと、全部片付けて、)
モトキが顔だけ横に向ける。
モトキ(それからだったのに、俺は何を先走って──)
モトキが顔を向けた方には窓がある。
窓のからは、こうこうと輝く、東京の夜景が見える。
モトキ・モノローグ『俺はまだ、告白する資格すら無かったのに』
モトキ(円居さん……)
モトキ(待っててくれるかな、俺のこと)
サクラがベッドの上にあおむけになり、大の字になっている。
サクラ「はぁ~~~~~っ!」
サクラがごろんと寝返りを打ち、横向きになる。
サクラ・モノローグ『画面の向こうで並んで笑ってるあの二人が──』
〇会見会場(昼) ※回想
モトキとネネが隣同士で座って微笑んでいる。二人はカメラのフラッシュを大量に浴びている。
サクラ・モノローグ『──頭から離れない』
〇サクラの部屋(夜) ※回想終了
横向きにベッドに横たわるサクラ。泣きそうな顔をしている。
サクラ・モノローグ『私とモトキくんなんかより何倍もお似合いだと思った』
サクラ(あのお嬢様の言った『モトキ』は、やっぱりモトキくんのことで)
サクラ(あの部屋にあったあの白いジャージは、モトキくんのもので)
サクラ(つまりあの部屋に泊まっているのは、あのお嬢様とモトキくんってことで)
サクラはぎゅっと目を閉じる。
サクラ(つまり二人は──)
〇ペントハウススイート・ベッドルーム(夜) ※想像
ベッドの足元にモトキとネネが座っている。
二人は甘い空気を漂わせながらキスをし、ベッドに倒れこんでゆく。
〇サクラの部屋(夜) ※想像終了
サクラ「って、何考えてるんだろうね、私」
サクラは深いため息をつく。もう一度、あおむけになるよう寝返りを打った。
サクラ・モノローグ『これでいいと思う』
サクラ・モノローグ『若くてセレブなモトキくんには、若くてセレブなあのお嬢様がぴったりだ』
サクラ(婚約者がいるなら私になんて構わないでほしかった)
サクラ(けど──)
〇マンションの廊下(夜) ※回想
部屋の扉の前で、スーツ姿のモトキが真剣な顔をしている。
モトキ「円居さんへの気持ちは変わりませんが、ご迷惑を鑑みて今はこの気持ちは胸の奥に仕舞うことにしました」
〇サクラの部屋(夜) ※回想終了
サクラはベッドにあおむけのまま。
サクラ・モノローグ『あれはこうなるって分かってた、彼なりの誠意だったんだと思う』
サクラ(でも……私だって好きだった)
サクラの目尻から、涙が一筋こぼれる。
サクラ・モノローグ『全部全部、逃げ腰だった私のせい』
サクラ・モノローグ『私が悪い。なのに──』
サクラの目から、涙が溢れ出す。涙が止まらず、サクラは顔をぐしゃぐしゃにする。
サクラ・モノローグ『胸からせり上がってくるモヤモヤが涙になって溢れてくる』
サクラ(綺麗さっぱり流したい)
サクラ(全部、無くなっちゃえばいいよ。こんな気持ち)
サクラ「そうだ、銭湯──」
サクラははっとした顔をして、起き上がる。
サクラ(モトキくんに会うかもってなかなか行けてなかったけど、今ならモトキくんはホテルだし)
サクラ(おばあちゃんも元気になったって言ってたし……)
サクラは涙をぬぐい、立ち上がる。
サクラ「よしっ!」
サクラが銭湯に行く準備を持って、部屋を出て行く。
〇銭湯の前の道(夜)
サクラが一人で銭湯へ向かい歩いている。
サクラ・モノローグ『何もかも、流れますように』
サクラ・モノローグ『綺麗サッパリ、流れますように』
〇銭湯の入り口(夜)
番台におばあちゃんが立っている。サクラが銭湯に入っていくる。
おばあちゃん「あら、サクラちゃん! 久しぶりだねぇ、会えて良かった」
おばあちゃん「うちの銭湯で怪我させちゃったんだって聞いて、ずっと謝りたくてねぇ」
サクラ「おばあちゃん! 私のことなんていいの、もうすっかり治ったから!」
サクラ「お菓子もありがとう、美味しかった!」
サクラ「おばあちゃんは怪我の具合どう? 大丈夫なの?」
おばあちゃん「わしはすっかり元気だよ! こうして番台にも立てるからねぇ」
サクラ「良かった! おばあちゃん、女一人ね!」
サクラが200円をおばあちゃんに手渡す。
おばあちゃん「ありがとうね、サクラちゃん」
おばあちゃん「女湯はもう一人もいないから、ゆっくり入っておいで」
サクラはおばあちゃんに笑みを向け、脱衣場へと入っていく。
〇銭湯・女湯の中(夜)
サクラが銭湯の浴槽に浸かっている。
サクラ「はぁ、久しぶりだなぁ」
浴場の中には、湯煙が溢れている。
サクラ・モノローグ『流れていく』
サクラ・モノローグ『お湯の中に、私の想いも、悲しみも、全部全部、きれいに流れて』
銭湯のシャワー台の間の通路も湯煙で満たされている。
サクラ・モノローグ『この大きなお風呂を出る頃には、すっかり新しい私に──』
シャワー台の辺りを眺めるサクラは、突然泣き出してしまう。
サクラ「うう……ふぇ……」
サクラ・モノローグ『──なれると、思ってたのに』
サクラ(どうして銭湯に来ちゃったんだろう)
〇銭湯・女湯の中(夜) ※回想
シャワー台の間でサクラが倒れている。モトキが驚いてサクラを見下ろしている。
サクラ・モノローグ『初めて彼と出会ったこの場所では──』
モトキ「大丈夫っすか!?」
サクラ・モノローグ『嫌というほど、彼のことを思い出してしまう』
〇銭湯・女湯の中(夜) ※回想終了
サクラが涙を堪えられず、浴槽の中一人で泣いている。
サクラ・モノローグ『この気持ちが流れないのなら──』
サクラ・モノローグ『彼の言葉を、流せないのなら──』
湯煙が天井まで昇る。
サクラ・モノローグ『──この湯煙になって、消えてしまいたい』
サクラ、涙を腕で拭う。
サクラ(バカだなぁ、私)
サクラ(もうあがろう。これ以上泣いたら止まらなくなりそうだもん)
サクラが湯船から上がる。
〇銭湯の入り口(夜)
着替えを終えたサクラが、帰り支度を持って番台へ向かっている。
番台には、おばあちゃんが立っている。
サクラ「おばあちゃん、出たよ。遅くまでありが──」
番台の向こう、男湯の方に白いジャージを着たモトキの姿が見え、サクラは立ち止まってしまう。
モトキがおばあちゃんへ声を掛けている。
モトキ「男湯、忘れ物チェック終わった。このまま掃除に──」
モトキもサクラに気が付く。二人はしばし見つめ合う。
おばあちゃん「おや?」
モトキの視線を辿ったおばあちゃんがサクラに気づき、サクラに笑みを向ける。
おばあちゃん「サクラちゃん、出たのかい。ゆっくりできた──」
サクラは慌てて銭湯の戸に手をかける。
サクラ「おばあちゃん、また来るね!」
ガラガラとその戸を開け、慌てるように銭湯を出て行く。
モトキがサクラの背中に手を伸ばす。
モトキ「円居さん!」
モトキはサクラを追いかけ銭湯の外へ走って行く。
〇銭湯の前の道(夜)
逃げるサクラを、モトキが追いかけている。
モトキ「待って、円居さん!」
逃げるサクラの顔には、涙が浮かんでいる。
サクラ(無理。待てない。こんな顔──)
モトキ「待ってよ、円居さん!」
サクラ・モノローグ『──彼に見られたくない』
サクラ(追いかけないでよ、バカ!)
〇住宅街の道(夜)
サクラは逃げ、モトキが追いかけている。
モトキ「待てよ、サクラっ!」
追いついたモトキが、サクラの腕をバシっと握る。
サクラは立ち止まる。
モトキ「はぁ、はぁ……、やっと……追いついた……」
モトキ「どんだけ足速えんだよ……」
サクラは泣き顔のまま勢いよく振り返る。
サクラ「離してよ!」
モトキは真剣な顔で、握った手に力を込める。
モトキ「嫌だ」
サクラ「何で!? 私のことフッたくせに!」
サクラ「モトキくんには婚約者だっているのに!」
モトキの顔がはっと見開かれる。
サクラの顔は愁いを帯びながら、斜め下に視線を向ける。
サクラ「お似合いだと思う」
サクラ「こんな年上の身体も汚いオバサンよりも、全然」
サクラ・モノローグ『違う、こんなの八つ当たりだ』
サクラの目から、涙が溢れ一筋、頬を伝う。
サクラ・モノローグ『ごめんね、モトキくん』
サクラ・モノローグ『私は、こうやって理由をつけて逃げて、これ以上傷付かないようにって――』
サクラ・モノローグ『逃げることしか、できないんだよ』
サクラ「だから……」
モトキと見つめ合うサクラ。
モトキの手の力が抜け、サクラの腕がするりと抜け落ちる。
モトキの顔が、悲し気に歪む。
モトキ「……ごめんなさい」
サクラ・モノローグ『それはつまり、〝別れ〟ということ』
サクラは泣き顔のまま、無理やりにニコっと微笑む。
サクラ(バイバイ、モトキくん)
サクラはモトキに背を向け、住宅街を静かに歩いてく。
モトキは顔を歪ませたまま、その場に立ち尽くしている。
〇サクラの部屋(夜・明かりがついていない)
サクラが力なく部屋に入っていくる。
そのまま、その場にへなへなとへたり込んでしまう。
サクラ(逃げて、捕まって、また背を向けて──)
サクラ(恋なんて、苦しいだけ。悲しいだけ、傷付くだけだよね)
サクラは窓の外を見上げる。窓の外は、夜空に星が浮かんでいる。
サクラ・モノローグ『ねえ、お星さま──』
サクラ・モノローグ『どうしたら、彼を忘れられる?』
〇住宅街の道(夜)
モトキが一人、顔を歪ませたまま立ち止まっている。サクラが去っていた方を、じっと見ている。
モトキ・モノローグ『掴んでいた手を、離してしまった』
〇住宅街の道(夜)※回想
モトキが泣き顔のサクラに向かって、顔を歪ませている。
モトキ「……ごめんなさい」
サクラは泣き顔のまま、無理やりにニコっと微笑む。
モトキ(婚約者のこと、知ってたのか)
サクラがモトキに背を向け、住宅街を静かに歩いてく。
モトキ・モノローグ『僕に背を向け、夜の闇に消えていく彼女を──』
モトキ(泣いてたよな、円居さん)
モトキは顔を歪ませたまま、その場に立ち尽くしている。
モトキ『──それ以上、追いかけることはできなかった』
モトキはうつむき、悔しそうに両こぶしをぐっと握り締める。
モトキ(何もかも、中途半端なままにした俺のせいだ)
〇銭湯の入り口(夜)
おばあちゃんが番台に立ち、不安そうな顔をしている。
入り口の戸がガラガラと開き、肩を落としたモトキが入ってくる。
おばあちゃん「おかえり、モトキ」
モトキ「うん……」
モトキ「ばーちゃん、俺、男湯掃除終わったら女湯も掃除してくわ」
モトキ「もう遅いからばーちゃんは先に帰って」
言いながら、顔を上げずにおばあちゃんの前を通り過ぎるモトキ。
おばあちゃんは何かを察し、笑顔を浮かべる。
おばあちゃん「そげか、じゃあお願いしようかねぇ」
おばあちゃん「あんまり遅くならんと、無理せんよ」
モトキの丸くなった後ろ姿が、男湯の中に入っていく。
おばあちゃん「のんびりゆっくりでもいいがや。終わらんかったら、明日やればいいからな」
モトキ「うん」
〇ペントハウススイート・ダイニング(夜)
ネネが窓際のソファに座り、スマホを弄っている。
がちゃり、と扉が開く音がして、ネネは入り口の扉の方を向く。
扉からは、肩を落としたモトキが入ってくる。
ネネ「あ、おかえりモトキ!」
モトキがため息を零し、眉間にしわをよせ、部屋内に入ってくる。
モトキ「お前、まだいたのか」
ネネ「別にいいでしょ! こんなハイグレードなお部屋なかなか泊まれないし――」
ネネ「夜景もキレイだし! ほら、東京の街が一望できる~♪」
ネネが窓の外を見下ろし、きゃっきゃと騒ぐ。モトキは面倒くさそうにネネの向かいにあるソファに座る。
モトキ「はぁ……」
モトキ「そんなん、彼氏に連れてきてもらえよ」
モトキ「俺なんかと過ごすよりそっちのほうが全然いい」
ネネは顔を寂しそうに歪ませ、うつむく。
ネネ「まあ、そりゃそうなんだけど──」
ネネは窓の外を見下ろす。
ネネ「ねえ、モトキ」
ネネ「私たち、本当に結婚しなくて良くなるかな」
モトキがはっとして、無理やり笑顔を浮かべる。立ち上がり、ネネの後ろへ。そのままネネの肩を、ぽんと叩く。
モトキ「心配すんなよ、俺が何とかするって言ったろ」
モトキ「結婚式には呼べよなー。あ、式の前日は食いすぎんなよ」
モトキ「ドレス入んなくなったら笑ってやる」
ケラケラ笑うモトキ。ネネは顔だけ振り返る。頬を膨らませながらも頬を赤らめる。
ネネ「もー、モトキ! 気が早すぎっ!」
モトキの目が細められる。
モトキ「だから、心配すんな」
ネネはモトキの顔を直視できず、目を逸らす。
ネネ「……ありがと」
しかし、ネネはすぐにいたずらな笑みを浮かべモトキを見上げる。
ネネ「モトキの結婚式も呼んでよね!」
ネネ「タキシード姿のままお風呂掃除してそうだけど」
モトキ「んだよ、それ」
ネネ「あー、でもモトキの場合はその前にお相手探さなきゃか!」
ケラケラ笑うネネ。モトキは急に顔をしかめる。その頬は、ほんのり赤らんでいる。
モトキ「それは心配いらねーよ。好きな人はちゃんといる」
ネネ「え、嘘っ!? 私知らないっ!」
モトキ「言ってねーもん」
モトキが愛しい人を想うように、優しい笑みを浮かべる。
ネネは立ち上がり、追求するようにモトキの顔を覗く。
ネネ「誰だれ? 私の知ってる人⁉」
ネネ「もう付き合ってるの? いい感じなの~?」
モトキは目をぱちくりさせ、呆れたようにネネの肩をそっと押す。
モトキ「お前面倒くせえ」
ネネ「いいじゃん教えなさいよ! 減るもんじゃないし~」
モトキ「あーもう寝ろ寝ろ」
モトキは言いながら、ネネの肩を掴みくるりと向きを変えさせる。
そのまま寝室のある方へ、ネネの背中を押して誘導する。
モトキ「俺またこっちで寝るから寝室行け、早くっ!」
ネネ「わ、押さないでよもーっ!」
ネネは怒りながら抵抗するが、そのまま寝室の扉の中に押し込まれてしまう。
モトキはガチャリと、寝室の扉を閉じた。
部屋が静かになると、モトキはドサっとその身をソファに沈める。
モトキ「ふう……」
一息つくように目を閉じるモトキ。
しかし、すぐに目を開け天井を見つめる。
モトキ(女の恋バナってやつか? 面倒くせえ……けど──)
モトキ、そのままソファに身体ごと倒れ込む。
モトキ「俺も大概、面倒くせえ男だよなぁ」
ソファの上、組んだ両手を頭の下に置いたモトキ。
モトキ(もっと格好良く、大人の男性になって、)
モトキ(諸々のこと、全部片付けて、)
モトキが顔だけ横に向ける。
モトキ(それからだったのに、俺は何を先走って──)
モトキが顔を向けた方には窓がある。
窓のからは、こうこうと輝く、東京の夜景が見える。
モトキ・モノローグ『俺はまだ、告白する資格すら無かったのに』
モトキ(円居さん……)
モトキ(待っててくれるかな、俺のこと)