【シナリオ】カラダ(見た目)から始まる恋はアリですか!?
第五話 行き場のない想い
〇星が輝く夜空(夜)

サクラ・モノローグ『肩透かしを喰らったような行き場のない想いは──』
サクラ・モノローグ『──私の胸を傷付けるには十分だった』

〇サクラの部屋(夜)

  サクラが部屋の扉を開け、よろよろしながら入ってくる。

サクラ・モノローグ『とっくに、好きになっていた』

  サクラがベッド倒れ込む。うつぶせのまま、泣きそうな顔をする。

サクラ(傷付くなら、恋なんてしないって──)
サクラ(落ちないように、落ちないようにってあんなに気を付けていた私の前で──)

〇銭湯・女湯の中(夜) ※回想

  湯煙の中、モトキが立ちサクラを心配そうな顔で見下ろしている。

サクラ・モノローグ『いつだって彼は――』
モトキ「大丈夫っすか!?」

〇ホテルの客室・ベッドルーム(昼) ※回想続き

  モトキが動けないサクラに背中を向けている。顔だけは、サクラの方を向いている。

サクラ・モノローグ『ピンチの時に現れて――』
モトキ「ほら、背中乗ってください」

〇サクラの部屋の玄関(夜) ※回想続き

  モトキがサクラを抱きしめている。

サクラ・モノローグ『有無を言わず助けてくれたのに──』
モトキ「我慢しないで、泣いていいっすよ」

〇銭湯の脱衣場(夜) ※回想続き

  タオルを巻いたサクラが目を伏せて気のベンチに座っている。

サクラ・モノローグ『身体が汚いからとか、』
サクラ「世の中の女性の身体はもっと綺麗だから私の汚い体を見たことがキミのコンプレックスにならないといいなぁって」

〇サクラの部屋(朝) ※回想続き

  サクラがベッドの上にいる。上半身だけ起き上がったサクラは、ベッドサイドに立つモトキを見ている。

サクラ・モノローグ『年下だからとか、』
サクラ「そもそも私はキミなんかには釣り合わないよ。10歳も離れてるんだよ?」

〇サクラの部屋の玄関(夜) ※回想続き

  サクラが怯えるように奥の扉に張り付いている。

サクラ・モノローグ『〝恋〟と〝性欲〟を履き違えているだとか言い張って、』
サクラ「あ、あのねぇ。性欲のことは恋って言わないからね」

〇真っ黒な背景 ※回想・想像

  険しい顔をした白ジャージ姿のモトキが立っている。隣でサクラが困った顔をしている。

サクラ・モノローグ『彼の気持ちを考えもしないで――』
モトキ「俺さ、許せねーんだ」
モトキ「おねーさんのカラダはキレイなのに、勃たないとか言っておねーさん傷つけたクソみたいな元カレ」

サクラ・モノローグ『私の考えを押し付けてた――』

サクラ「こんなオバサンに向かって『俺と付き合わない?』はないよ。キミにはキミに合う若い子がいいと思う」

  モトキの表情が悲しそうに歪む。

サクラ・モノローグ『恋に傷付きたくないから、』

  モトキの顔が真剣なものになる。

モトキ「俺、本気で円居さんのこと好きだし」

サクラ・モノローグ『自分の気持ちごまかして、』

サクラ・セリフのみ「あー……うん──」

サクラ・モノローグ『向き合うことから逃げた』
サクラ・モノローグ『その結果が──』

  顔を伏せていたモトキが顔を上げる。
  いつの間にか、スーツ姿になっている。

モトキ「今まで『好きだ』とか言って、ご迷惑をおかけしてすみませんでした!」
サクラ・モノローグ『──これ』
モトキ「じゃあ」

  モトキが背中を向ける。どんどんと小さくなり、消えていく。
  サクラは必死にモトキに手を伸ばす。

サクラ「待って!」

〇サクラの部屋(夜) ※回想・想像終了

  サクラはベッドの上にうつぶせのまま、涙を流している。

サクラ「待ってよ……」

  サクラはベッド横の壁を見て、手を伸ばす。

サクラ・モノローグ『この壁の向こうにいるのに──』
サクラ「モトキくん……」
サクラ・モノローグ『こんなに近くにいるのに──』
サクラ(一歩、踏み出す勇気──)

  サクラ伸ばしていた手を引っ込める。顔を引き締め、袖で涙を拭いながら上半身を起こす。

サクラ(勇気だよ!)

  サクラは立ち上がり、急いで部屋を飛び出す。

〇マンションの廊下(夜)

  サクラが頬を赤らめ、モトキの部屋の扉の前に立っている。
  高鳴る胸を抑えるように片手を胸に当て、反対の手でインタ―フォンを押す。
  「ピンポーン」と、インターフォンが鳴る。

サクラ「モトキくん!」
サクラ・モノローグ『伝えたいことがあるなら──』

  もう一度、インターフォンを押すサクラ。

サクラ「モトキくーん!」
サクラ・モノローグ『──ちゃんと伝えなきゃっ!』

  扉の向こうはしんとしている。サクラははっとして、悲し気に顔を歪める。

サクラ「モトキくん……?」
サクラ「いないの? モトキくん……」

  サクラはインターフォンに指を置こうとして、その手を下げる。

サクラ「何で……?」

  廊下にサクラがぽつんと一人で佇んでいる。その背は丸まっている。

サクラ(ああ、ダメだ)
サクラ(なんで私っていつもこう──)

〇ホテルの事務室・客室部(昼)

  仕事鬼畜モードを再開させたサクラがすごい勢いでキーボードを叩いている。
  それを見て、部長とコノミが呆然としている。

サクラ「部長、来月のパートさんのシフトできました。確認お願いします」
部長「お、おう……」
サクラ「来月末の客室稼働率下がってますけど、ここもう少し予約入りますかね? 余裕見ておいた方がいいですかね?」
部長「あー、えっと……」
サクラ「一旦去年のデータと照らし合わせてみますね。キャンペーンとか特になかったですよね」
部長「ああ、そうだな」
部長「……あんまり無理するなよ?」

  部長の声掛けを無視し、パソコンに向かうサクラ。
  そんなサクラをチラチラ見ながら、部屋の隅で、部長とコノミが顔を見合わせる。二人はコソコソと話し出す。

部長「おい、円居また鬼畜モードじゃねーか」
部長「うまく行きそうだったんじゃないのか?」
コノミ「おっかしーなー。私は背中バンバン押してあげたんですよ?」
コノミ「それにこの前は、ちゃんと最後には前向きな感じでしたし──」

  部長が意味深に微笑む。
  コノミはビクッとして困り顔になる。

コノミ「もう探り入れるの嫌ですよ?」
コノミ「っていうかあんな状態の円居さんに話しかけるの怖いです」

  二人が同時にサクラの方を振り向く。サクラが二人を見る。サクラは怖いくらいの無表情をしている。

サクラ「部長、確認まだですか?」

  二人はぴくりと身体を震わせ、「ひっ」と息を呑む。元に向き直ると、二人は困り顔で頭から汗を飛ばす。

部長「だよなぁ」

  部長の胸ポケットのスマホが不意に震える。
  コノミがビクッとするが、部長がスマホを耳に当てほっと安心する。

部長「──……はい、」

  部長がスマホで通話をしている。その顔が急に驚き見開かれる。

部長「──……えっ!? 本日から宿泊されてるんですか!?」
部長「──……は、今から!?」

  部長は困り顔で通話後のスマホを見つめる。
  コノミの頭には?が浮かんでいる。

コノミ「どうしたんですか部長?」
部長「明日からペントハウススイートに長期宿泊予定のお客様いるだろう」
部長「前倒しで昨日から宿泊されているらしく──」

  部長はため息をこぼす。

部長「──今から清掃入って欲しいと」

  コノミが目を見張る。

コノミ「え、明日からあそこが長期稼働になるからって──」
コノミ「あそこの特殊清掃できるパートさん、今日は全員お休みですよ」
コノミ「私もまだ研修受けてないですし、円居さんは腰痛めてるし──」

  言いかけたコノミの前を、サクラが横切る。
  いつの間にか、部長の前にサクラがおり、部長とコノミは驚く。

サクラ「大丈夫です、行きます!」

  サクラはくるりと二人に背を向け、事務室を出ていこうと駆けていく。

部長「ま、円居!?」
部長「無理するな、まだ他に方法が──」

  サクラが部長の方にくるりと方向転換。部長の方へ走ってくる。

コノミ「あ、戻って来た」

  サクラはコノミと部長の前を素通りし、壁に併設されたキーボックスを開けた。

サクラ「マスターキー忘れました。ではっ!」

  サクラはさっとマスターカードキーを取ると、風のような速さで事務室から出ていく。
 部長とコノミが驚きながら、サクラの後ろ姿を見ている。

部長「ちょ、おいっ!」

〇ホテルの廊下(昼)

  サクラが清掃道具の入ったカートを押しながら、歩いている。

サクラ(清掃業務してる方がいい)
サクラ(体動かしてる方が、余計なこと考えなくてすむから)

  サクラ、意気込むような顔つきに変わる。

サクラ「よしっ!」
サクラ「かかってこいっ! ペントハウススイートっ!」

〇ペントハウススイートルーム前(昼)

  サクラが扉をノックする。

サクラ「失礼いたします。客室係でございます──」

  サクラ、扉を開ける。

〇ペントハウススイートルーム・ダイニング(昼)

  ペントハウススイート内を見回すサクラ。誰もおらず、テーブルや椅子の汚れもない。

サクラ(ふーん、キレイじゃん。これなら時間かからなさそう)
サクラ(先にベッドからやりますか!)

〇ペントハウススイートルーム・ベッドルーム(昼)

  サクラがベッドの足元からシーツの角を引っ張り出している。なお、ソファにはカバーをはいだデュベとピロ―が、サクラの足元には剥いだデュベカバーとピローケースが落ちている。

サクラ「よいしょっと」

  サクラがベッドのシーツの角を持ちピンと張り、シーツをベッドから引き抜こうとしている。シーツの上がキラリと光り、はっとして慌てて手を止める。
  サクラが光った所を見ると、ハート型のピアスが片方落ちていた。

サクラ「あぶなっ! 巻き込んじゃう所だった……」

  慌ててポケットから白手袋を取り出し、ピアスを拾うサクラ。

サクラ「きっと高級なものだよね。壊さないように……」

  サクラはピアスをベッドサイドのチェストの上にそっと起き、手袋をポケットにしまう。
  ベッドの足元へ行き、再びシーツの角を持ってピンと張る。

サクラ「よし、今度こそ」

  バサッとシーツを引き抜くサクラ。

〇ペントハウススイートルーム・ベッドルーム(昼) ※時間経過

  サクラが額の汗を拭いながら、ベッドメイキングの終わったベッドを見下ろしている。

サクラ「──シワなしシミなし角ぴったり!」
サクラ「我ながら完璧なベッドメイキング!」
サクラ「さて、お次は……」

  サクラがベッドルームの部屋に併設されたガラス張りの扉を見る。中はバスルームになっている。

〇ペントハウススイートルーム・バスルーム(昼)

  白いタイルに大理石の洗面台と浴槽のついたバスルーム。サクラは入口に立ち、中を眺めている。

サクラ「うん、思った通りキレイに使ってらっしゃるな」
サクラ「……あれ? このジャージ――」

  床に置かれたランドリーバスケットに、白いジャージが入っている。サクラの脳裏に白いジャージ姿のモトキが映る。

サクラ「モトキくんがここに!?」
サクラ「……んなわけないか」

  ため息をこぼしながら、スポンジを手に洗面台の清掃を始めるサクラ。

サクラ(モトキくん、セレブだしきっとあのジャージも高級なものなんだろうな)
サクラ(ここに宿泊される方と同じくらい)
サクラ(……そうだよね。出会ったのが銭湯だからって身近に感じてたけど──)
サクラ(このホテルの御曹司だもん。私とは住む世界が違う子だ)

〇ペントハウススイートルーム・ダイニング(昼)

  サクラが調度品の並ぶ棚を丁寧にダスティングしている。
  部屋内がピカピカになる。サクラは額の汗を拭い、ふう、と息をつく。

サクラ「ダスティングよしっ! あとは掃除機掛け──」

  部屋の鍵が「ガチャリ」と解錠する音がする。
  サクラは反射的に入口側を向き、腰から綺麗に頭を下げる。
  扉が開く。

サクラ「おかえりなさいませ、お客様。ただ今お部屋の清掃をさせていだいて──」

  城崎(しろさき)ネネがサクラの目の前まで切実そうな顔でズカズカと進んでくる。
城崎ネネ:華奢な身体にキラキラとした顔立ち、長い髪は巻き髪になっておりお人形みたいな可愛らしさ。白い清楚なワンピース姿。

城崎ネネ「ねえあなた!」
ネネ「この部屋でピアス見なかった!?」

  ネネの距離と顔の近さに、背中をのけぞらせるサクラ。頭からは汗が飛んでいる。

ネネ「ハート型のダイヤのついたやつ!」
ネネ「お父様に頂いたとーっても大切なものなんだけど!」
サクラ「寝室のベッドの上にそれと覚しきものを見つけましたが──」

  ネネの顔が急に綻ぶ。

ネネ「本当!?」

  ネネは飛び跳ねるようにサクラの前から退き、寝室へとバタバタ走って行く。

サクラ「あ、あの──」

  サクラは言いかけるも、寝室の扉が閉まってしまう。サクラは唖然とする。

サクラ(すごいパワフルな子だ。どちらのお嬢様なんだろう)
サクラ(でもきっといい子だよね。『お父様にもらった』ものを大切にできる)
サクラ(──うん、親孝行だ)

ネネ(声のみ)「あった~~~~っ!」

  寝室の扉がすごい勢いで開き、ネネが飛び出してくる。サクラの目の前で止まる。
  ネネの顔はキラキラと輝いている。

ネネ「あったよお姉さん! ありがとー」
ネネ「私が朝めちゃくちゃにしたベッドもきれいに整ってて感動しちゃった!」
サクラ「お客様に快適にお部屋を使っていただけるよう整えるのが私どもの仕事ですので──」
ネネ「本当にありがとう!」
ネネ「ベッドさ、モトキに『使い方汚い』って怒られちゃって」

  ネネははにかむ。サクラはキョトンとする。

サクラ「モトキ……?」
サクラ(いやいや、モトキなんて名前の人そこら辺にたくさんいるよね)
サクラ(何でもモトキくんに結びつけちゃうこの思考やめぃ!)

  サクラの笑顔が歪み、頭から汗が飛ぶ。

ネネ「あ、モトキって私の婚約者ね」
ネネ「幼い頃から知ってるから婚約者っていうか、ただの旧友って感じなんだけど──」
サクラ(婚約者──お嬢様は恋する相手も選べないのか)
サクラ(大変だな)

  ネネが「あ」と口を開ける。

ネネ「なんてこの話お姉さんには関係ないか!」
サクラ「いえ、あはは……」
ネネ「ってヤバっ! 急いでるんだった!」

  ネネは青ざめるが、すぐにぱあっと顔をほころばせる。
  表情のコロコロ変わるネネに、サクラは唖然とする。

ネネ「ピアスもお掃除もありがとうね! えっと──」

  ネネがサクラの胸元をじっと見る。サクラの胸元には、ホテルのネームタグが付いている。

ネネ「──円居さん!」

  ネネが慌てて部屋の扉に走って行く。ネネが出て行くと「バンッ」と勢いよく扉が閉まる。
  しばらく呆然としていたサクラだが、はっと我に返り、肩の力が抜ける。

サクラ(嵐みたいな子だった……)
サクラ(――じゃなくてっ! 掃除機がけしなきゃね)

  サクラも慌てて清掃の続きを始める。

〇ホテルの事務室・客室部(昼)

  事務室の扉を開け、くたくたになったサクラが入ってくる。

サクラ「ただ今戻りました──」

  サクラが下げていた顔を上げると、部長とコノミが部屋の隅にあるテレビ画面を見ている。
  マスターキーをキーボックスに戻しながら、サクラが二人に訊く。

サクラ「何観てるんですか?」
部長「ああ、これ──」
コノミ「円居さんの旦那さんですよ」

  コノミの頭から、見えない花が舞っている。

サクラ「はぁ?」
コノミ「朝共有あったじゃないですか。今日、御曹司くんが支配人に就任するって」
サクラ「え!?」

  サクラが慌ててテレビの前に行く。
  サクラに押し出された部長が、ケラケラと笑う。

部長「円居、やっぱり聞いてなかったのか」
部長「心ここにあらずみたいな顔してたもんなぁ」

  サクラはテレビの画面にくぎ付けになっている。

サクラ「嘘……」

  サクラの顔がテレビに近づく。テレビの音だけが聞こえている。

Kajiiグループ会長(声のみ)「本日付にて我が息子、梶井モトキが我がKajiiグループの系列ホテルであるグーヴェルナイユ東京の──」

〇会見会場(昼)

  用意された高砂台に、会長の隣に凛とした表情でスーツ姿のモトキが座っている。

会長「支配人に就任したことを報告いたします」

  たくさんのメディアのフラッシュがモトキにたかれる。
  モトキは立ち上がり、マイクを手に取る。

モトキ「本日より、私がホテル・グーヴェルナイユ東京の──」

〇ホテルの事務室・客室部(昼)

  テレビの画面からサクラが背後にいた部長とコノミの方を振り返る。

サクラ「待って、ねえ」
サクラ「モトキくんってまだ大学生だよね?」
部長「ああ、若いのに立派だよなぁ」
コノミ「本当ですよね!」
コノミ「学業と並行して仕事としてKajiiグループの経営に貢献だなんて──」
コノミ「さっすが、焼肉王子」
サクラ「焼肉関係ないでしょ……」

  再び背後のテレビから音声が聞こえる。サクラが振り返る。

会長(声のみ)「ホテルKajiiグループは今後、シロサキアミューズメントと事業を──」
サクラ「え、待って!」

  テレビ画面の中に、シロサキアミューズメントの社長とネネが映っている。
  サクラがテレビの画面に顔を近づける。

サクラ「部長、この子――」
部長「シロサキアミューズメントグループの令嬢だな」
サクラ(ってことは──)

〇会見現場(昼)

  シロサキアミューズメントグループ社長が挨拶している。その隣で、モトキとネネが隣同士に、凛として座っている。

サクラ・モノローグ『婚約者のモトキって──』
サクラ・モノローグ『モトキくんのことなのーーー!?』
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