姉の身代わりに
 そのリーゼルの母親が仕事を探していると聞きつけたエリンが、是非とも彼女に家庭教師をお願いしたいと、父親に頼み込んだ。
 少し人間不信になりかけていた娘が、このように他人に興味を持ったことに驚いたマキオン公爵は、リーゼルの母親をエリンの家庭教師として迎え入れた。
 リーゼルの母親は、家庭教師としても優秀だった。エリンが学院時代に学年トップの成績を維持できていたのも、彼女の教えがあったからといっても過言ではない。
 悪知恵が働くエリンは、リーゼルの母親を自分の母親にしたいと言い出した。
 つまり、父親であるマキオン公爵家にリーゼルの母親と再婚をしろと迫ったのだ。
 エリンの言葉を聞いた二人がどう思ったかは知らないが、その後二人は再婚をし、二人の間には男の子が生まれた。だから、まんざらでもなかったのかもしれない。
 だけど、エリンには一つだけ許せないことがあった。リーゼルがエリンと出会ったことを覚えていなかったこと。
 それを母親に問い詰めた。
 ――きっとその後すぐに父親が亡くなってしまったから、記憶が混乱しているのかもしれないわね。
 生まれたばかりの弟を抱っこしながら答えていた。
 ――それでもあの子は、またここに遊びに来ることを楽しみにしていたのよ。
 抱いてみる? と母親から受け取った弟は、エリンにも似ていたしリーゼルにも似ていた。この弟は二人を繋ぐ架け橋みたいな存在であると、エリンは思ったのだ。
 マキオン公爵家はその弟が継ぐことになっている。
 だからエリンも、愛する人の腕に飛び込んだ。
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