清くて正しい社内恋愛のすすめ
「僕、穂乃莉さんには色々教えてもらったから、恩返ししたくて」

「そんなことないよ。卓くんは、新人の頃から本当に手がかからなかったもん」

 穂乃莉が振り返ると、卓は少し照れたような顔をした。


 卓は今時珍しく、とても素直に教えられたことを吸収してくれる後輩だ。

 同期の花音が少しハチャメチャなところがあるからか、懸命にサポートする姿は傍から見ていてもほほ笑ましい。


「穂乃莉さんがずっと営業かけてる“東雲(しののめ)リゾートホテル”。僕も全力で協力しますから!」

「うん! ありがとう」

 穂乃莉は明るく答えると、卓と一緒に席を立った。

 やはり卓には癒される。

 つぶらな瞳で、いつまでも追いかけて来てくれる子犬のようだ。


 ――腹黒の加賀見とは、えらい違い……。


 加賀見はいつだって余裕がある顔をしているし、堂々とした佇まいはお嬢様の穂乃莉が臆するほどで、そこがいつも穂乃莉の対抗心に火をつけるポイントのような気がしていた。


 すると小さくため息をついた穂乃莉の前で、花音が扉からひょっこりと顔を出す。

「あ、いたいた! 穂乃莉さーん! 社長がお呼びですよー」

 花音は口元に手を当てると、上のフロアを指さした。

「了解! ありがとう」

 穂乃莉は花音に軽く手を上げると、隣の卓に「ちょっと行ってくるね」と声をかけ、足早に上のフロアへと向かった。
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