清くて正しい社内恋愛のすすめ

契約のはじまり

「はぁー」

 穂乃莉は大きくため息をつくと、休憩室の自動販売機のボタンを力なく押す。

 ガコンッと予想外に大きな音を立てて、ミルクティーの缶が落ちてきた。

 今日は朝から余計な冷や汗をかいたせいか、疲労感が大きい気がする。

 穂乃莉はミルクティーを手に、窓際の席に腰かけた。


「穂乃莉さん、お疲れですね」

 後ろから声をかけられて振り返ると、(すぐる)が爽やかな笑顔で立っている。

 卓はにっこりとほほ笑むと、穂乃莉の隣の椅子を引いた。


「そんなに悲壮感漂ってる?」

「いえいえ! ただちょっと疲れてるのかなって。あんなこと聞いちゃった後ですし」

「あ、あんなことって……!?」

 まさか、もう加賀見とのことが噂になっている!?

 穂乃莉はギクッとして、思わず身を乗り出した。


「え? あと三ヶ月で、穂乃莉さんがトラベルを退職するって話ですけど……」

「あ、あーそっか。そ、そう! そうなんだよね。あと三ヶ月なの……」

 穂乃莉は慌てて取り繕うようにそう言うと、不思議そうな顔をする卓に、苦笑いを見せる。

 加賀見との出来事が衝撃的すぎて、一番重要なことを忘れかけていた。
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