清くて正しい社内恋愛のすすめ
「穂乃莉さん! もう戻られたんですか!?」

 穂乃莉がフロアに入ると、花音が驚いたような顔で駆け寄ってきた。

「うん。心配させちゃってごめんね」

 穂乃莉はフロアを歩きながら小さくほほ笑むと、そっと加賀見に目線を送る。

 加賀見は顔を上げて、じっと穂乃莉を見つめていた。


「久留島社長の具合は、大丈夫なのか?」

 相田が心配そうな顔を覗かせる。

「はい。ちょっと疲れが溜まっていたようなので、念のため今日から検査入院することになってます」

「穂乃莉ちゃんが付き添ってなくて平気なの?」

「祖母の秘書がずっと付いていてくれるので、私がいるより安心なんです」

 穂乃莉がおどけたように言うと、玲子や他のみんなはほっとした顔をして、また自分の業務に戻っていく。


 穂乃莉はデスクに鞄を置くと、そっと斜め前の加賀見の顔を見た。

 加賀見もみんなと穂乃莉の会話を聞いて安心したのか、優しくほほ笑んでいた。


 ――あぁ、ダメだ……。


 加賀見にほほ笑みを返した穂乃莉は、つい瞳が潤んでくる自分に気がついて、慌てて目線を逸らす。

 やっぱり加賀見の顔を見ると自覚する。

 涙が溢れる程に、自分は加賀見が好きなんだと……。


 それから穂乃莉は一心不乱に仕事をした。

 少しでも気が緩めば、色々な事が頭の中で渦巻いてくる。

 それを追い払うように、仕事のことだけを考えた。
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