清くて正しい社内恋愛のすすめ
 加賀見はひとしきり笑った後、穂乃莉の頬に手を当てると、優しい顔で見つめた。

「いや、ごめん。穂乃莉は可愛いなと思って」

「か、か、可愛い!?」

 穂乃莉は素っ頓狂な声を上げると、まじまじと目の前の顔を覗き込む。


 可愛いなんて言葉、男性から真正面に言われたことなんて、今まで一度もなかった。

 加賀見は何も気にしていないのか、にっこりとほほ笑むと、もう横のパソコンに手を伸ばして電源を入れている。

 そうだ。加賀見はこういうことをサラッと言えてしまうタイプなんだ。


 ――ずるい……。


 優しい顔でそんな事を言われたら、恨み言も何も言えなくなってしまうじゃないか。

 穂乃莉は口を尖らせると、パソコンを操作する加賀見の指先をじっと見つめていた。


「実家に帰ってたんだろ?」

 加賀見は目線をパソコンに向けたまま口を開く。

「う、うん」

「大企業のお嬢様の年末年始がどんなか、そっちの状況とかわからないからさ。連絡は控えといた」

「え……? そうなの……?」
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