清くて正しい社内恋愛のすすめ
「まぁ、お前の退職までに形にしたいと思ったら、あんまり時間ないしな」

 加賀見はそう言うと、照れたように頭に手をやる。

「加賀見……」

 その様子を見ながら、穂乃莉は企画書をぎゅっと胸に当てた。


 今まで加賀見はただ世渡りが上手なだけだと思っていた。

 飄々(ひょうひょう)としているし、何でも労せずスマートにこなす恵まれた人なのだと。


 ――でも、全然違った……。


 穂乃莉は胸がだんだんと熱くなるのを感じながら、顔を上げる。


「加賀見って、ただ器用なだけの人なんだと思ってた。でも本当は違う。プランを考えた時もそう。先のことまで見通して、努力してる人だった。結果は必然的についてきてただけなんだ……」

「お前は俺のこと、全然見てなかったもんな」

「そ、そんなことないよ。ちゃんと、ライバル視してたし」

 穂乃莉の「ちゃんと」という言葉で、加賀見がぷっと吹き出す。

「でも、俺に対する評価は、ものすごく低かったと思うけど?」

「そ、そんなことないって!」
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