清くて正しい社内恋愛のすすめ
 ムキになって身を乗り出した穂乃莉の言葉を制止するように、加賀見の親指が穂乃莉の唇にそっと当たる。

 柔らかい感触が唇をなぞり、さっきのキスを思い出して穂乃莉は頬を真っ赤にして下を向いた。


「な? だからキスにも意味があるってこと」

 加賀見はにんまりと口元で弧を描くと、「データ送っとくから」と会議室を後にしたのだ。


 ――悔しいけど、本当にそうだ……。


 加賀見にキスされたあの日から、穂乃莉の加賀見に対する見方は180度変わった。

 それも、こんなに恋してしまうほどに……。

 加賀見が触れた部分が、じんじんと熱を帯びている。

 しばらく会議室で一人ポーっとのぼせ上がっていた穂乃莉は、「よし!」と気持ちを切り替えるように、頬をパンパンと両手で叩いた。

 そして気合を入れると、もう一度企画書に目を通しだす。

 休みの日に作業してまで、加賀見が形にしてくれたこの企画書に、今度は自分が想いを詰め込む番だ。
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