Dying music 〜音楽を染め上げろ〜
夏樹の正体
バスの中、この揺れが眠気を倍増させるんだよね。
♪ピコん。
でもそれはスマホの通知音によって消えた。師匠からだ。メッセージを確認する。
ー『今日 CAN。Cのギターコラボ。19時~19時半。」
今日の夜のスケジュールだ。CAN。Cさんね。このバンド、ベースとドラム安定しているからいいよね。曲は強めロックだからギターはレスポールでいいかな。
メッセージには続きがあった。
ー『20時半からお前の出番。20分。プラベ。Aスタ確保済み。』
やった。
出番だ。
めちゃくちゃ久しぶりの出番。嬉しさもあってすぐに返信した。
ー『了解です。Aスタ1時間前から入れさせてください。』
ー『分かった。何歌う?』
あ、曲決めないと。20分なら余裕もって3曲だよな。歌いたいやつ、今日の気分。……ロック系歌いたいな。よし、決めた。
ー『クラッシュエンド、HOW ARE YOU,FirstKingでお願いします。』
ー『HOWARE YOUって先週りリースされたばかりだぞ?』
ー『覚えました。』
ー『喉は?』
喉?
ー『どうして?』
ー『クラッシュエンドで声量使ってそのあとにバラード系、最後にまたアップテンポってキツくねぇか?』
もしかして心配してくれてる感じ?
ー『大丈夫ですよ。』
そのあと既読がついただけで返事は来なかった。久しぶりだからな。少し無理してもいいよね。
家に帰ってそのまま準備する。
んーと、今からだと5時くらいには家出たいな。へッドホン、ギター、のど飴、メイク道具を詰める。今日の衣装どうしよう。靴はあっちに置いてあるんだよなぁ。お気に入りのパーカーは選択中だし、悩んでグラデーションカラーのオーバーサイズパーカーとスキニーパンツに決めた。それらもリュックに詰め込んでチャックを閉める。
「あ、今日使うのレスポールだった。」
間違ってテレキャス入れちゃった。玄関先で気づいてUターン。ギターだけ取り出して部屋に戻る。バタバタ準備して出発。
4つ目の駅、白河駅で降りる。南口を抜けて直進。何か今日いつもよりキャッチが多いな。捕まる前にさっさと突っ切ろう。繁華街が立ち並ぶ道、2つ目の信号を右に曲がる。そこからさらに奥の路地に入る。
細い路地裏まで来た。そこにあるのはごみ箱、廃材など。行き止まり、これ以上は進めない。
に見えるけれどこれはフェイク。確かに遠目からだと行き止まりに見える。けれどね、近くまで行ってみるとー、
「死角に抜け道があるんだよねぇ。」
そこを抜ければー。
現実世界から切り離されたような、音楽がはじける夜のストリート街。
ここはビルや繁華街が並ぶ大通りから外れたところにあるストリート。「Music street」って呼ばれているちょっとした音楽専門街。カラオケ、クラブ、楽器店、ライブハウス。あとはちょっとしたバーとかスナックとか。ストリートの真ん中にはゲリラライブが行えるブースもある。音楽好きが夜な夜な集まって来る場所。
数分歩くと黒と黄色のネオンライトの看板が見えてきた。
「Midnight」
俺の仕事場。
8年前、音楽と出会った場所。