左遷された王女は青銀の風に守られる ~地属性魔法で悪人退治を楽しんでいたら大変なことになりました~
 メイドがお茶を入れて、侍女が二人に配った。お茶菓子も置かれた。

「こちらには静養でいらっしゃったと聞いておりますが、お体のお加減はいかがですか?」

 エリゼオの言葉に驚くが、フェデリーカは平静を装った。父が静養のために田舎に来たという建前を作ったのだろう。
「おかげさまで、平気です」
 平気どころか元気を持て余している。

「この辺りは国境が近いのに治安がいいと聞いています。あなたのおかげなのですね」
「おほめいただき光栄に存じます」
 こんな社交辞令のやりとり、時間の無駄だ、とフェデリーカはうんざりした。
 国境付近はえてして治安が悪い。あくまで「比較的」治安がいいというだけの話だ。

 最近では放火して盗みに入る連続窃盗犯が出るようになったとキアーラから聞いていた。放火された箇所にみなが気を取られている隙に、無人になった家から金目のものを盗み出すのだ。
 たわいのない雑談を交わしたあと、思い切って聞いてみた。

「魔剣を使われるとか。今もお持ちですか?」
「いえ。剣を持って殿下にお目にかかるなどできません」
 王族の前で武器を持つことは基本的には許されていない。暗殺を危惧しての処置だ。

「残念です。拝見しとうございました」
「ご婦人が見ても楽しいことはないですよ」
「そうでしょうか。魔剣ならきっと刃の輝きも違うのでしょうね。鞘の作りは? 切れ味は? 気になることばかりです」
 彼はにこやかな目をさらに細めた。

「変わってらっしゃる……いや、失礼しました」
「いいのです。私も自覚しております」
「よろしければ今度お見せしますよ」
「本当に!?」
 思わず目を輝かせ、それからフェデリーカは気が付いた。これも社交辞令に違いないのだ。

「機会があれば、お願いいたします」
 お淑やかを装って、慌てて付け足した。
 彼はにこやかに笑い、了承した。



 彼が帰ると、また退屈の波がフェデリーカを襲った。
「ドレスでも仕立てますか?」
 キアーラが言う。
「無駄遣いよ」
 フェデリーカが答える。

「絵でも描いてみますか?」
「へたくそだもん」
「楽器は?」
「騒音で苦情が入るわよ」
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