呪われた皇女の結婚~敵国に嫁がせていただきありがとうございます!~
 きょろきょろと周囲を見回す。
 でも、暗くてよく見えなかった。

「こっちに」

 顔を声のするほうに向けると、アレシュ様の顔があった。
 私の顔を覆うヴェールに触れて外す。

「やっと顔を見れた」

 頬を撫でた手のひらは、あたたかかった。
 そして、夏の緑のような美しい瞳。
 私に触れないでくださいと、アレシュ様に言わなくてはいけないのに、すっかり言葉を忘れてしまっていた。
 今まで私の周りにはいなかった眩しい明るさに、目を細めた。

「アレシュ様……あの……」

 慣れない至近距離に戸惑い、思考も動きも止まる。
 自分の唇に触れたもの気づき、ひゅっと息を吸った。
 息を吸うことさえ、忘れていたのだと気づく。
 でも、もう遅い。

 ――アレシュ様が死んでしまう!

 それは恐怖だった。
 なぜなら、私に触れた者は死ぬ――そう言われていたから。
 まるで、呪いのように、言い聞かされて育った。
 アレシュ様の体が傾き、私の目の前に重い音を立てて倒れた。

「アレシュ様っ!」

 私の叫び声に、異変を察した兵士たちが駆け込んでくる。

「アレシュ様! どうなさいましたか!」

「いったいなにが……!」

 兵士たちの呼び掛けにも応じず、アレシュ様は青白い顔をし、目を閉じたまま動かない。
 さっきまで、明るい笑顔を見せていたのに、口づけひとつで、こうなった。

『幸せになれると思うな』

 お父様の声が聞こえたような気がした。
 今までずっと、呪われた身でも、ささやかな幸せを探して生きていこうと決めていたのに、今の私は見つけられなかった。
 倒れたアレシュ様を見て、私は生まれて初めて絶望を味わったのだったーー
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