呪われた皇女の結婚~敵国に嫁がせていただきありがとうございます!~
 しかし、すぐにその蛇は夜の闇に溶けて、見えなくなった。

「鳥か。この鷹は普通の鳥ではない。風の神の化身だ」

 自分のそばにいる神について、なにか知っているかどうか、シルヴィエにそれとなく聞き出そうとした。

「風の神?」

 どうやら、シルヴィエはなにも知らないようだ。
 結婚式の時、ドルトルージェ王国の神々について説明したが、その時も初めて聞いたという顔をしていた。

「シルヴィエのそばには銀の蛇がいる」
「まぁ! 私のそばに蛇ですか? ミミズは見たことがあるんですけど、蛇はまだ見たことがないのです。どちらにいますか?」

 周囲を見回す仕草が、可愛らしい少女のもので、笑ってしまった。

「こっちに」

 素直にこちらに顔を向け、その表情をもっとしっかり見たくて、ヴェールを外した。 

「やっと顔を見れた」

 銀糸のような髪、サファイアに似た瞳、陶器のような肌――まるで宝石だ。

「アレシュ様……あの……」

 頬に触れ、目を閉じる。
 戸惑う気持ちが伝わってきたが、緊張は一瞬だけ。
 唇を重ねた。
 閉じた目蓋をわずかに開けると、目の端に銀色の蛇が映った。
 その蛇の姿は、うっすらとしか見えない霧ほどの存在だったが、確かにいた。

 ――銀の蛇。間違いない。彼女のそばに蛇がいる。

 気づくのが遅かった。
 痺れと呼吸の乱れが体を襲う。
 なぜ、シルヴィエが皇宮の片隅に追いやられ、閉じ込められてしまったのか、その理由が、ようやくわかったのだった。
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