呪われた皇女の結婚~敵国に嫁がせていただきありがとうございます!~
 皇帝の子か誰の子かわからない皇子と知った実家が、母上に手を差しのべることはなかった――
 行き場のない母上は、ここで侍女として生きるしかなかったのだ。

「母上。俺は皇帝にはなれそうにない。約束を守れない息子を赦してほしい」

 俺が皇帝を目指したのは、母上のためだった。
 死んだ母上が生きていて、それを望まないのなら、俺が皇帝になる意味はなくなる。

「皇帝になってはいけません」

 その一言が、すべてに対する答えだった。

 ――やはり、俺は父上の子ではなかったのだ。

「そして、私は母と呼ばれる価値はないのです。陛下の愛情を失い、冷遇されたとはいえ、皇妃として扱われていた。シルヴィエ様の暮らしを見て、自分がいかに恵まれていたか、思い知ったのです」

 なにもかも欲しがりすぎていたのだと、泣いていた。

「庭師の子が皇帝になってはいけません」

 庭師と聞いて、すぐに思う浮かんだのは一人の男だった。
 黒髪に青い瞳を持つ男は一人だけ――ハヴェルを思い出した。
 ドルトルージェ王国へ送り込んだのが、まさか自分の父親だとは考えもしなかった。

「ラドヴァン。どちらの子なのか、わからないのです。ごめんなさい……ごめんなさい……」

 何度も謝る声が、雨音に重なって、ずっと耳に残った。

 ――不貞の子。

 皇帝の子でもない俺が、皇女であるシルヴィエを裏切り、苦しめる権利があったのか。
 そして、敵国に置き去りにした。
 皇宮にいる資格がないのは、シルヴィエではない。

 ――俺だ。

 雨はよりいっそう強くなり、暗い回廊の床に落ちた涙を隠した。
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